「障がい者雇用を実施したいが手順がわからない」
「障がい者雇用をめぐる法制度の理解が難しい」
とお悩みの採用担当者の方はいませんか?
この記事では、障がい者雇用の実施方法や、法律、改正の内容についてわかりやすく解説しています。
新卒の障がい者採用の動向についても解説していますのでぜひ参考にしてください。
これは、障害者が仕事を見つけ、維持しやすくするために、雇用主や社会全体で様々な支援や調整を行うことを意味します。
障害者雇用の重要な目的は、社会の包摂性を高め、障害者が自立し、自己実現できるようにすることです。
これには、適切な職業訓練や支援サービスの提供、職場のアクセシビリティの向上、柔軟な労働条件の確保などが含まれます。
障害者雇用の推進は、多様性と包摂性のある労働市場を構築し、社会全体の健全な発展に寄与します。
障害者雇用促進法では、「従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を法定雇用率以上にする義務がある」と定められています。(43条第1項)
現状の民間企業の法定雇用率は2.3%であるため、従業員数43.5人以上の企業が対象です。
従業員数に2.3%を乗じた際に1人を切った場合は、障がい者雇用の義務の対象から外れます。
なお「従業員数は雇用契約を結んでいる労働者の総数 」を意味するため、アルバイトや派遣社員の人数も含まれることに注意が必要です。
障がい者のカウント方法は以下の表の通りです。
【参考】厚生労働省『特定短時間労働者の雇用率算定について(案)』
厚生労働省が発表した「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障害者の数は61万3,958人で、前年より2.7%増加し、過去最高を記録しました。
障害者の実雇用率は2.25%で、前年より0.05ポイント上昇しました。また、法定雇用達成企業の割合は48.3%で、前年より1.3ポイント上昇しました。
これらの結果は、障害者雇用促進法の改正や、障害者雇用に積極的な事業主への支援策が効を奏したためであると考えられるでしょう。
今後も、障害者雇用促進法の改正や、障害者雇用に積極的な事業主への支援策が継続されることで、障害者の雇用機会の拡大がさらに進むことが期待されます。
出典:厚生労働省「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」
障害者雇用と一般雇用の違いは、大きく分けて以下の2点です。
障害者雇用は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれかを持っている人を対象としています。
一方、一般雇用は、障害の有無に関係なく、誰でも対象となります。
障害者雇用の求人や採用の条件は、一般雇用よりも柔軟に設定されています。例えば、障害の程度や業務内容に配慮した求人や採用を行うことができます。
具体的には、以下のようなものがあります。
また、障害者雇用では、一般雇用よりも採用率が高い傾向にあります。これは、障害者雇用を促進するための法律や制度が整備されているためです。
障害者雇用と一般雇用の違いをまとめると、以下のようになります。
算定対象に入る障がい者の条件は以下の3パターンです。
(A)身体障害者=身体障害者手帳保持者(重度身体障害者も含む)
(B)知的障害者=療養手帳など、各自治体が発行する手帳の保持者、知的障害者と判定する判定書保持者(重度知的障害者も含む)
(C)精神、発達障害者(精神障害者保健福祉手帳の保持者)で、症状安定し、就労ができる人
障害者雇用促進法において、企業は4つの基本義務が課せられています。
詳しく説明します。
先述の通り、常用する従業員が43.5人の民間企業の場合は法定雇用率に応じた人数の障がい者の雇用が必要です。
また、従業員数が100名を超える場合、法定雇用率に未達の場合障害者雇用納付金を湯押収されます。
障害者雇用促進法では、すべての事業主に、障がい者と健常者との均等な機会の確保を図るための措置を講じる義務が課されています。
具体的には、労働者の募集・採用においては、障害者からの申し出に応じて、障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければなりません。
<合理的配慮の例>
また、障がい者を雇用した後についても、障がいでない労働者と同様に、均等な待遇を確保し、障がいの能力を有効に発揮できるようにするための措置を講じる必要があります。
<合理的配慮の例>
などです。
ただし、事業主にとって過重な負担となる場合は、この義務を免除される場合があります。
【参考】合理的配慮指針
障がい者の雇用には障害者職業生活相談員の選任が必要です。
障害者職業生活相談員(以下「相談員」)とは、障害者の職業生活全般についての相談、指導を行う企業内担当者を意味します。
相談員の具体的な職務は、以下のとおりです。
相談員に選任する者は、以下のような要件のいずれかを満たす必要があります。
従業員43.5人以上の事業主は、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があります。
この報告は、障害者の雇用状況を把握し、障害者雇用促進法の施行状況を評価するために行われます。
報告内容は、以下のとおりです。
報告は、毎年ハローワークから送付される報告用紙に必要事項を記載して行います。
報告期限は、毎年7月15日です。
また、障がい者を解雇しようとする事業主は、その旨を速やかにハローワークに届け出なければなりません。
この届出は、障害者の雇用機会の確保を図るために行われます。
届出内容は、以下のとおりです。
届出は、ハローワークに直接提出するか、郵送で提出することができます。
届出期限は、解雇の日の翌日から起算して10日以内です。
これに伴い法定雇用率が2024年より2.5%に上昇するなど変化が生じます。
これは2022年12月10日の障害者総合支援法等の一部を改正する法律(「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」)の成立に伴うものです。
大きな変化は障がい者雇用の質を改善するアプローチがなされていることといえます。
法改正のポイントは以下の4点です。
①法定雇用率の改正
②雇用の質の向上のための事業主の責務の明確化
➂週所定労働時間10時間以上20時間未満で働く重度の身体・知的障害者、精神障害者の算定特例
④障害者雇用調整金・報奨金の支給方法の見直し
それぞれわかりやすく説明します。
なお、詳細の情報を知りたい方は以下のページをご参照ください。
【参考】令和4年障害者雇用促進法の改正等について|厚生労働省
障害者雇用促進法では、企業に、その従業員数に応じて、法定雇用率以上の障害者を雇用することが義務付けられています。
これまで、法定雇用率は2.3%でしたが、2023年4月1日から段階的に引き上げられることになりました。
具体的には、以下のようになります。
2024年4月:2.5%
2026年7月:2.7%
この法定雇用率の引き上げにより、障害者の雇用機会が拡大することが期待されています。
これまで、事業主の責務は、障害者を適切な雇用の場に提供し、適正に雇用管理することとされていました。
しかし、2023年4月1日から、これに「職業能力の開発及び向上に関する措置」を行うことも含まれることが明確化されました。
つまり、事業主は、障害者が企業で活躍し続けるために必要なスキルや知識を身につけることができるよう、支援を行うことが求められるようになりました。
具体的な措置としては、以下のようなものが挙げられます。
これらの措置を実施することで、障害者は自分の能力を最大限に発揮し、企業に貢献することができます。
障害者の中には、障害特性により長時間の勤務が困難な人もいます。
そのため、これらの障害者が就職・転職する際には、短時間勤務の求人が少ないという問題があります。
本改正によって、障害特性により長時間の勤務が困難な障害者を雇用した場合、実雇用率の算定上、1人をもって0.5人と算定することが可能になりました。
具体的には、週所定労働時間が10時間以上20時間未満で働く、重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者を雇用した場合が対象となります。
この特例措置により、短時間勤務の求人が拡大し、障害者の就職・転職の機会が広がることが期待されています。
これまで、障害者雇用調整金・報奨金は、事業主が法定雇用率を超えて障害者を雇用した場合に支給されていました。
しかし、2023年4月1日から、事業主が一定数を超えて障害者を雇用する場合、その超過人数分の支給額が調整されるようになりました。
具体的には、以下のようになります。
障害者雇用調整金:10人を超えた場合は、1人当たり23,000円(本来の額から6,000円を調整)
報奨金:35人を超えた場合は、1人当たり16,000円(本来の額から5,000円を調整)
① 親会社との人的関係が緊密であること。 (具体的には、親会社からの役員派遣等)
② 雇用される障害者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること。
また、雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者及び精神障害者の割合
が30%以上であること。
③ 障害者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること。
(具体的には、障害者のための施設の改善、専任の指導員の配置等)
④ その他、障害者の雇用の促進及び安定が確実に達成されると認められること。
この制度は、障害者雇用に積極的な事業主を支援するため、企業グループ全体で障害者雇用に取り組むことができるように設けられました。
【参考】「特例子会社」制度の概要
障がい者雇用を実施するまでの手順とサポートを紹介します。
障がい者雇用にあたって様々な支援を受けることができます。
出典:障害者雇用のご案内 厚生労働省
まずは、障がい者の特性を理解することが重要です。
障がい者を実習で受け入れたり、セミナーに参加することによって、障がい者雇用の解像度を改善できるでしょう。
<活用できる支援制度>
ハローワークなど支援機関への相談
地域障害者職業センターに対する職務の相談
障がい者の特性に合わせて受け入れ場所を検討しましょう。
<活用できる支援制度>
トライアル雇用
ハローワーク・地元機関との連携
障がい者雇用は受け入れがゴールではありません。
受け入れたのちにどのように定着してもらうかが重要です。
<活用できる支援制度>
ジョブコーチ支援
※ジョブコートとは職場適応援助者ともよばれ、受け入れた障がい者の方と、受け入れる既存の社員の相互サポートを行い、障がい者の定着支援を担う役割のことです。
新卒の障がい者の採用市場の状況を分析します。
発達障害に対する社会的な認知の向上や家族・周囲の理解の広がりにより、新卒の発達障害者が障害者雇用枠での就職を増やす傾向が続くと予想されます。
一方で、企業の採用ニーズは主に身体障害者に向けられており、これが発達障害者が多い市場とのミスマッチを生む課題も浮かび上がっています。
これは、障がいのある学生のうち35%が一般枠のみに応募しているためです。
また併願も含めると半数の学生が一般枠と同様のスケジュールで就職活動を進めていると判断できます。
そのため、適切に人材を獲得するためには、障がい者枠と一般枠を同時時期に並行して募集するのが望ましいといえるでしょう。
ここまで読んでくださった方の中には「障がい者雇用を進める重要性は理解したけど自社だけで進めるのは不安」という人もいるかもしれません。
ここからは障がい者雇用に便利なツール・サービスをご紹介します。
「dodaチャレンジ」は、パーソルグループが運営する障害者転職支援サービスです。
このサービスでは、障害の種類や特性に合わせた専門チームが、企業の求人要件にマッチした候補者をご紹介します。また、初期選考の代行や入社の意向醸成などもサポートします。
対象企業規模 すべての企業規模
対応エリア 全国
費用 成功報酬型
紹介手数料:初年度理論年収の35%
導入社数 約3000社 ※2017年3月期実績
【参考】https://doda.jp/challenge/service/support/recruit.html
「atGP」は、株式会社ゼネラルパートナーズが提供する、企業向けの障害者採用支援サービスです。
このサービスでは、障害者採用の専門知識とノウハウを持った専任のコンサルタントが、企業の障害者採用活動をトータルサポートします。
対象企業規模:すべての企業規模
対応エリア:全国
費用:完全成功報酬型
紹介手数料:理論年収の35% 採用時のみ費用が発生
導入社数:非公開
おすすめの企業
【参考】アットジーピー就活エージェント
パーソルダイバースは、障害者雇用を推進する企業向けのソリューションサービスを提供する、パーソルグループの事業会社です。
2010年に設立され、障害者採用支援、就労移行支援、雇用支援コンサルティング、組織コンサルティングなど、障害者雇用に関するさまざまなサービスを提供しています。
対象企業規模:すべての企業規模
対応エリア:全国
費用:要問合せ
アドバイザリー支援300,000円/月~
雇用計画コンサルティング 1,200,000円~
導入社数:導入社数非公開
【参考】パーソルダイバース
「障がい者雇用ができないとどんなリスクがあるのだろう」と不安に思われている方もいるかもしれません。
ここからは障がい者雇用数が規定値に未達だった場合に発生するリスクを解説します。
出典:ハローワーク飯田橋雇用指導部門「障害者の雇用に向けて~ 障害者雇用に取り組む企業をハローワークは支援いたします。 是非、ご相談ください!!~」
従業員が100名を超える企業が障害者雇用率を下回っている場合、
法定雇用障害者数に足りない人員数×50000×不足した月数
の障がい者雇用納付金の支払いが求められます。
なお、障害者雇用納付金は罰金ではないため、この納付金を納めたとしても障がい者雇用の義務は残ります。
障がい者雇用の目標未達が続く場合、国からペナルティを課せられる可能性があります。
以下の条件のいずれかに当てはまった場合、ハローワークから「障害者の雇入れに関する計画」の策定を求められる可能性があります。
a 実雇用率が全国平均実雇用率未満であり、かつ不足数が5人以上の場合
b 実雇用率に関係なく、不足数10人以上の場合
c 雇用義務数が3人から4人の企業(労働者数150人~249人規模企業)であって雇用障害者数0人
作成命令が出された場合、命令発出後の1月1日から2年間の期間の計画を立て、それに沿った障がい者の雇用を実施しなければなりません。
障害者の雇入れの計画の実施を怠っているとみなされた場合、、公共職業安定所長は計画の適性実施を求める可能性があります。
計画期間の終了後以下の条件に当てはまる場合特別指導の対象になります。(9カ月)
<特別指導内容>
以上のフローを経ても改善が見られなかった場合に、企業名が公表されることになります。
なお、この企業名公表は障害者雇用促進法第47条に基づくものです。
これ以後も指導が続き、改善がなければ再度の公開が行われる可能性があります。
公表企業については厚生労働省の報道資料より閲覧可能です。
【参考】障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表について
【参考】ハローワーク飯田橋雇用指導部門「障害者の雇用に向けて~ 障害者雇用に取り組む企業をハローワークは支援いたします。 是非、ご相談ください!!~」
障がい者雇用を不適切に実施していたり、目標に届かない状況が続く場合、その企業の価値が毀損される可能性があります。
実際に、「障害者雇用代行ビジネス」について批判を浴びたエスプールは報道後にストップ安の水準まで株が売られるなど影響が生じました。
今後さらにD&Iを意識した投資が進めば同様の事例が増加することが考えられます。
【参考】【材料】エスプールがS安、障害者雇用代行を巡る報道が重荷
障がい者雇用を実施することで助成金を受け取れる可能性があります。
障害者雇用促進法に基づく助成金制度には、以下の通りです。
常時雇用している労働者数が100人を超える事業主で、障害者雇用率を超えて障害者を雇用している場合は、その超えて雇用している障害者数に応じて、1人につき月額2万9千円(令和5年3月31日までの期間については2万7千円)の障害者雇用調整金が支給されます。
障害者雇用納付金申告もしくは障害者雇用調整金申請事業主であって、前年度に在宅就業障害者又は在宅就業支援団体に対し仕事を発注し、業務の対価を支払った場合は、「調整額(2万1千円)」に「事業主が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数」を乗じて得た額の在宅就業障害者特例調整金が支給されます。
常時雇用している労働者数が100人以下の事業主で、各月の雇用障害者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%の年度間合計数又は72人のいずれか多い数)を超えて障害者を雇用している場合は、その一定数を超えて雇用している障害者の人数に2万1千円をかけた額の報奨金が支給されます。
報奨金申請事業主であって、前年度に在宅就業障害者又は在宅就業支援団体に対し仕事を発注し、業務の対価を支払った場合は「報奨額(17000円)」に「事業主が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額(35万円)で割って得た数」をかけた額の在宅就業者特例報奨金が支給されます。
特に短い時間であれば働くことができる障害者である労働者を雇用する事業主に対する支援として、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者数に応じて、1人につき月額7千円または5千円の特例給付金が支給されます。
これらの助成金は、障害者雇用率の達成を促進し、障害者の就労機会の拡大を図るために設けられています。事業主は、これらの助成金の活用を検討することで、障害者の雇用促進に積極的に取り組むことができます。
なお、これらの助成金の申請には、一定の要件を満たす必要があります。
詳しくは以下のページを参考にしてください
【参考】障害者雇用納付金制度の概要
近年、企業経営においては、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)が重要なテーマとなっています。
D&Iとは、多様な人材を受け入れ、その多様性を活かすことで、企業の競争力や生産性を高めようとする考え方です。
障害者の雇用は、D&Iの観点から企業にとって重要な取り組みであると言えます。
障害者の雇用は、障害者の方々の社会参加を促進し、社会の包摂性を高めることにつながります。また、障害者の持つ多様な視点や能力を活かすことで、企業の新たな価値創造につながる可能性もあります。
障がい者雇用の仕組みは年々変化しており、理解が難しい領域です。
しかし、採用に当たっては様々な支援や、補助金を得られるなど手厚いサポート体制があります。
障がい者雇用を進めることで企業価値改善や社会貢献につながります。
この記事が障がい者雇用・新卒の障がい者枠の整備の準備に役立てられていれば幸いです。