新卒内定者に提出を求める資料のひとつに「健康診断書」があります。
この記事では、内定者を対象とした健康診断の制度や実施時期、企業が気を付けるべき点を解説します。
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労働安全衛生規則第43条では、常時使用する労働者を雇い入れる際には、健康診断を行わなければならないことが定められています。
雇入時の健康診断は、企業に実施の義務があるということです。
常時使用する労働者とは、1年以上の継続雇用が見込まれるパートタイマーやアルバイトも含む全ての労働者を指します。
ただし、入社日の3カ月以内に必要な健康診断項目を全て実施し、その結果を証明する書面を提出したときは上記の限りではありません。
つまり、雇入時の健康診断は(1)入社後の健康診断(2)入社前3カ月以内に行った健康診断書の提出のいずれも有効です。
【参考】厚生労働省「労働安全衛生規則」
雇入時の健康診断の対象者は、企業が常時使用する労働者です。
契約社員やアルバイトであっても、下記の<A>のいずれかの条件と<B>の条件をどちらも満たす場合は雇入時の健康診断を受診する義務があります。
<A>
※深夜業などの特定業務に常時従事する方の場合は6ヶ月以上
<B>
【参考】厚生労働省|よくあるご質問
採用選考時の健康診断は、募集業種や職種に対する適性を判断するために、健康状態を把握する必要がある場合に実施します。
しかし、健康診断には応募者の適性を判断する上で必要のない項目が含まれている可能性が高いです。
そのため、必要性を十分に検討した上で、合理的・客観的に妥当な場合のみ提出を求めることができます。
合理的・客観的に妥当な場合とは、具体的には以下の場合であると厚生労働省は説明しています。
上記に当てはまる場合であっても、応募者本人に必要性を説明し同意を得ることが必要です。
また、業務に関係のない項目が記載された健康診断書の提出を求めないように注意しましょう。
【参考】公正な採用選考の基本|厚生労働省
厚生労働省は、労働安全衛生法等で会社に義務づけられている健康診断の費用は会社が負担すべきとの見解を示しています。
そのため、雇入時の健康診断にかかる費用は原則企業が負担しましょう。
中には、入社前3カ月以内の健康診断書を提出させることで、費用を内定者負担としている企業もあります。
しかし雇入時の健康診断が企業の義務である以上、入社前の健康診断であっても企業負担としましょう。
健康診断の費用を抑えるために、加入している健康保険組合や自治体の制度を利用するという方法があります。
健康保険組合によっては、提携する医療施設等で通常より安く各種企業健診を実施している場合があります。
自治体が企業向けの健診を実施している場合もあるため、健康保険組合や自治体に確認してみるとよいでしょう。
労働安全衛生規則第43条で定められた雇入時健康診断の項目は以下の11項目です。
雇入時健康診断は検査項目を省略できないことに留意しましょう。
【参考】厚生労働省「労働安全衛生規則」
原則として、健康診断の結果で採用の可否は判断できません。
ただし、例外的に内定を取り消すことができる場合もあります。
詳しく見ていきましょう。
内定を取り消すことができるのは、内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実を理由として、内定を取り消すことが客観的に合理的と認められ社会通念上相当と認められる場合に限られます。
健康診断の結果の場合は、必要な職種に対し、合理的・客観的に妥当な場合に限り、内定の取り消しが認められると考えられます。
【参考】労働政策研究・研究機構「採用内定取消|雇用関係紛争判例集」
合理的・客観的に妥当な場合とはどのような状況を指すのでしょうか?
以下で具体的な例を見ていきましょう。
一般的に、内定取消事由として「病気・事故により、勤務に堪えられないとき」といった記載がされます。
具体的には以下のような場合が当てはまります。
ただし、想定していた職種では労務提供が不可能であっても、他部門であれば労務提供が可能な場合は、内定取り消しが認められない可能性が高いです。
就業によって労働者の持病等が悪化することが見込まれる場合は、内定取り消しが認められる可能性があります。
ただし、想定していた職種では健康状態が悪化する危険があったとしても、他部門であれば問題ない場合は、内定取り消しが認められない可能性が高いです。
以下では、うつ病などの既往歴の申告について解説します。
うつ病などの精神疾患の既往歴を聞くことは、就職差別につながる危険性があります。
そのため、精神疾患の既往歴を聞くことは控えましょう。
回答は任意であると応募者側に伝えた場合でも、応募者は実質的に回答を迫られていると解釈する可能性があります。
既往歴が虚偽だった場合に解雇できるかどうかは、既往歴が業務内容に与える影響によって決まります。
既往歴によって業務の遂行に著しい障害が生じると判断される場合は、懲戒解雇の事由に当てはまると考えられます。
一方で、業務の遂行に対する影響が軽微である場合・全く影響がない場合は、解雇は無効となる可能性が高いです。
内定者を対象とした健康診断で人事が気を付けるべき点を、すでに説明した内容も含めて今一度確認していきましょう。
先述の通り、採用選考時の健康診断書は、合理的・客観的に妥当な場合のみ提出を求めることができます。
そのため、選考時に健康診断書を一律に提出させることは避けましょう。
提出させる場合でも、目的を説明した上で、判断が必要な項目のみ提出を求めるようにしてください。
また血液検査は就職差別につながりやすいため、対象外にすべきです。
雇入時の健康診断書は、入社日の3カ月以内に実施したものを提出させ、費用は原則企業が負担します。
健康診断の結果により内定取り消しを行う場合は、産業医に適正性の判断を求め、取り消す必要が生じた際は、顧問弁護士に相談しましょう。
誓約書等に一般的な内容を網羅した内定取消事由を記載することも忘れないようにしてください。
内定者が雇入時健康診断の受診を拒否した場合は、健康診断を受けないことのリスクを説明し、未受診を防止しましょう。
健康診断を受診しないと、労働者に健康障害が生じた場合、企業は安全配慮義務違反で損害賠償請求されても過失相殺の対象になります。
また労災事故が起きる可能性もあるため、健康診断は必ず受診する必要があると内定者に説明してください。
受診しなかった場合には就業規則に懲戒処分を設けることも有効です。
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いかがでしたか?
この記事のポイントは以下の通りです。
内定者の健康診断に関する制度を理解し、トラブルを防ぎましょう。