最近やたらと「パーパス」という言葉を耳にするけれど、実際どのような面において役に立つのか疑問に思っている方も少なくないはず。
本記事では、採用面において「パーパス」を打ち出すことによって得られる効果などをご紹介していきます。
どのような人材を採用したいのかについてまず明確にした上で、「パーパス」を活用した採用を行いましょう。
採用したい人材についてのイメージを具体化するやり方が分からない、という方は以下の記事をご参照ください。
【参考】【新卒】採用ペルソナの設定方法を具体例・フォーマットで紹介します
「パーパス」という言葉は、「意図」や「目的」といった意味を示す英語の「Purpose」をカタカナにしたものです。
ビジネスシーンにおいては「社会的な目線における企業の存在意義」、つまり「その企業が行うことは社会において何の役に立つのか」という理由を示す言葉として使われます。
「パーパス採用」は、求職者に対してこのような企業の社会的価値を採用活動時にアピールし、企業が持っている目的に共感できる人材を採用することを指します。
ここまで読んで、「パーパス」は、MVVと呼ばれる「ミッション」「ビジョン」「バリュー」とは何が違うのだろうという疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
パーパス:「どうしてMVVを達成するべきか」という、企業が社会的に果たす役割
ミッション:「企業として何をするのか」という使命やあり方
ビジョン:「企業としてどのような姿になりたいか」という展望
バリュー:ミッション・ビジョンを達成していく上で必要な価値観や行動指針
三井住友トラスト・ホールディングスの実例を見ながら、それぞれで示すべきものについて理解していきましょう。
このように「パーパス」「ビジョン」「ミッション」「バリュー」全てを提示している企業もあれば、「パーパス」と「バリュー」などのみを選んで提示している企業もあります。
「正直自分は就職活動の時にその企業が持つ社会的意義なんて興味なかったな」と思っている方も多いのではないでしょうか。
実は、70%の人が現職へ入社の際にパーパスへの共感を重視したという調査結果が出ています。
入社タイミング別にみると年々パーパスへの共感を重視する人数は増えており、入社時にパーパスを「かなり重視した」と回答した人は2017年度では18%でしたが、2022年度では36%まで増えています。
【参考】株式会社Wantedly『ウォンテッドリー、企業のパーパスと採用に関する調査結果を発表』
なぜこのように入職・転職の際に企業のパーパスを重視する人が増えているのでしょうか?
次項ではその背景についてご紹介します。
パーパスに注目が高まる背景を知らなければ、パーパスを通して企業が発信するべきメッセージは分かりません。
いまパーパスを提示することがなぜ必要なのかという理由を2つの背景からご紹介していきます。
1990年代半ばから2000年代終盤に生まれた世代をZ世代と呼び、新卒学生として就職活動をしているほとんどがこの層に当てはまります。
Z世代は、携帯を持ちはじめる小・中学生時代にスマホが普及し、ソーシャルメディアと共に育ってきたため、他の世代と比べて情報感度が高いと言われています。
気候変動や格差問題に関する教育が積極的に行われていたことや、ソーシャルメディアの特性により社会問題に対して当事者性を持ちやすくなっていたことから、Z世代は社会貢献に関心のある人が比較的多いとされています。
日経MJの調査では、1980年〜1990年代半ばに生まれたミレニアル世代よりも、Z世代の方が「社会課題の解決に貢献したい」という意識が高いという結果が出ました。
【参考】日経クロストレンド『「高くても社会貢献できるなら買う」 エシカルを楽しむZ世代』
Z世代の人材は、就職活動においても社会貢献性を意識しています。
「ビジネスが社会に貢献している」ことを就職活動でエントリーする企業で重視していると答えた人は30.4%でした。
【参考】株式会社電通『電通、「Z世代就活生 まるわかり調査2022」を実施』
『大量生産・大量消費』が是とされる従来の消費経済社会から変わりつつある現在、企業の社会的価値を提示する「パーパス」が重要視されてきています。
昨今、SDGsという言葉を耳にしない日はないかと思います。
国連サミットで採択された2030年までに達成するべき17の世界目標を示すSDGs。地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」持続可能な社会を目指すために、企業が取り組むべき課題も多くあります。
目標達成のために積極的な活動をしている企業も多くあり、売り上げや利益のみだけではなく、環境保全や格差是正にも目を向けた事業活動を行っています。
このようなサステナビリティ経営をできているかが企業の長期的成長に欠かせないとし、Environment (環境)・Social(社会)・ガバナンス(Governance)を総合的に評価するESG投資がトレンドです。
世界最大の資産運用会社BlackRockのCEOであるラリー・フィンクは、投資先企業に向けた2022年度の公開書簡において以下のように書いています。
「企業経営者が一貫した主張、明確なパーパス、理路整然とした戦略、長期的な視点を持つことが今ほど求められている時はないでしょう。貴社のパーパスは、この波乱の時代に進むべき方向を示す羅針盤のような存在となるでしょう」
【参考】BlackRock『ラリー・フィンク 2022 letter to CEOs:資本主義の力』
投資家が評価軸の一つとしてパーパスを重視していることが、企業の社会的価値を明示する後押しとなっています。
ここでは改めて、企業がパーパスを提示するメリットはどのようなところにあるのかについてご紹介していきます。
パーパスを積極的に発信していくことによって、企業のもつ価値観や考え方に近い人材の求職者が自社に関心を持つ可能性を増やすことができます。
特に、将来の幹部候補となる人材を採用する際は、パーパスへの共感が重要になります。
今持っているスキルよりも、マインド面におけるマッチ度を重視する傾向のある新卒採用では、採用活動においてパーパスを提示するメリットは大きいでしょう。
「自分の行う仕事にどのような価値があるのだろうか」と考えたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
企業の提示するパーパスに対して共感を持っている社員の方が、事業成長に貢献したいと思いやすいです。
なぜ働くのか、自分のやることにどのような価値があるのか、という理由を理解することが、社員が働くモチベーションへと繋がります。
パーパスは事業を行う上で根幹となるもの。その根幹への理解が社内で浸透していると、意思決定基準が明確になり、社員一人ひとりが企業として何を選択するべきかを考えやすくなります。
企業として一貫した選択を社員一人ひとりがしていくことで顧客や消費者としても「その企業にしかない価値」を感じやすくなるため、ブランディング効果も期待できます。
企業の社会的価値を表すパーパスを提示することで、長期的な目線においてなぜ自社が必要なのかという理由を示すことができます。
パーパスがあることで株主や社員、顧客や取引先などからの信頼を得やすくなり、持続可能な経営を行いやすくなります。
「パーパスを掲げて社会貢献性をアピールしているけど、実際は全くパーパスを体現しようとしていない」というような状態を「グリーンウォッシュ(=パーパスウォッシュ)」と呼びます。
「グリーンウォッシュ」をする企業は、株主や顧客といったステークホルダーからの信頼を失いやすく、そのため事業成長しづらくなります。
パーパスを掲げる際は、実現できる可能性が見えることが重要です。
「グリーンウォッシュ」にならないためには、上記の項目に当てはまるパーパスである必要があります。
「パーパスが何かは分かったけど、実際にどうやって採用活動に反映させればいいのかわからない」といった方のために、パーパスを採用活動で取り入れる方法について解説していきます。
企業HPだけではなく、採用HPやナビ媒体などにもパーパスを記載しましょう。
ソニーグループ株式会社の採用HPでは、企業や事業を紹介する文章の至る所に以下のようなパーパスが記載されています。
「誰とも違う個性豊かな⼀⼈ひとりの成⻑と、その挑戦を発揮できる機会や場所となるソニー。
会社であるソニーとその中で会社を動かす⼈がPurpose(企業の存在目的)を中⼼に、相互成⻑作⽤を起こしていくと私たちは考えています。
私たちはこれを、Sonyʼs People Philosophy - Special You, Diverse Sonyと定義しました。
Purposeを中心に社員と会社が対等な関係であることを前提に、社員自ら掴んだ選択への期待と覚悟、そして緊張感を持ってお互いが真剣に向き合ってこそ、多様な“個”が成長し、“個”を受け入れる“場”であるソニーも成長していく、という成長の相互作用が生まれると考えています。」
【参考】ソニーグループ『採用情報』
この文章を読むだけで、会社の雰囲気や大事にしているものが伝わりますね。他の企業でも、ビジョンやカルチャーを紹介するページにパーパスが記載されているケースが多いです。
採用HPにパーパスを記載することで、求職者に向けて「自社はどのような会社なのか」をアピールすることに繋がります。
会社説明会で事業説明などと一緒に、パーパスについても共有しましょう。
先述したように、就職活動を行う際にパーパスを重視する求職者は多いです。会社説明会でパーパスを説明することで、魅力訴求が可能です。
事業の根幹となるパーパスを共有しておくと、日々の業務に関する説明への理解度アップにも繋がります。
パーパス採用を成功させるためには以下の3つのポイントを意識してみると良いです。
パーパス採用では、企業の根幹となる部分をいかにわかりやすく求職者へ伝えられるかが重要です。
そのため、採用活動を通して企業イメージを形成させる『採用ブランディング』が、パーパス採用を行う上で必要不可欠です。
ロゴや配色などのデザイン面や、キャッチコピーなどの文章面から、自社が大事にしているものや価値を伝えていきましょう。
【参考】採用ブランディングとは?成功事例を交えて運用方法をご紹介!
自分の友人に対して粗末な扱いをしている人が「社会を良くしたい」と言っていても説得力がないですよね。
パーパスを体現できる企業であると求職者に示すためには、採用活動を通して自社に対する良いイメージを求職者に持ってもらう必要があります。
そのためには採用CX(=採用活動における候補者体験)を高めていくことが大切です。
学生と対等に話し合えるように意識する、連絡はなるべく早く返信する、など候補者を大事にする採用を行うことで、採用CXを高めることが可能です。
具体的な方法は以下の記事をご覧ください。
【参考】【採用CXとは?】即マネできる参考事例や取り組むメリットを解説
ただ声高々に自社のパーパスを提示するだけでは、「実は何もしていないんじゃないの?」と懐疑的になる求職者も出てくる可能性が高いです。
パーパスを提示するときに具体的な活動内容も共に紹介することで、企業に対する信頼性の向上や、パーパスへの共感度向上に繋がります。
具体的な活動内容を示せない場合は、先ほどご紹介した「グリーン・ウォッシュ」であると疑われてしまうため、注意が必要です。
実際にどのような企業が、どのようなパーパスを掲げているのか気になるところですよね。
以下では5社の企業事例をご紹介します。
各社の採用HPなども参考にしながら、パーパスをどのようにアピールしていくべきかを考えていきましょう。
わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、 世界をより持続可能にしていくことです。
富士通株式会社では、企業ホームページと採用ホームページのどちらにもパーパスを記載しています。
企業ホームページでは、パーパスが掲げられた文章の下に『What we do』というミッションにあたる文章を記載しており、具体的に何をしていくのかが示されています。
採用ホームページでは、『Purpose Movie』という枠が設けられており、経営層と社員がパーパスについて語る動画が形成されています。
文章と動画の組み合わせによって、求職者がパーパスについて理解を深めやすい設計になっており、パーパスへの共感が高い人材からの応募を促進していることが分かります。
【参考】富士通株式会社『Our Story』
【参考】富士通株式会社採用ホームページ『Our Purpose』
私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む
環境保全活動に対する取り組みが有名なパタゴニア。
2022年9月に全株式を環境保全団体に寄付し、「地球が私たちの唯一の株主」というコメントを出したことが話題になりました。パーパスを体現する行動として、とても印象に残りますね。
サイトページ下部には具体的に企業が行っているパーパス実現のための事業や、顧客に対する呼びかけが記載されており、クリーンな企業イメージを構築しています。
【参考】パタゴニア『資本主義を再考する』
Fun for All into the Future
2021年10月、バンダイナムコグループは企業理念体系を改定し新たに「パーパス」を制定。そしてブランドロゴも一新しました。
モチーフとなるカラーに使用されたマゼンダには、多様性という意味合いや、明るく楽しい印象が含まれています。
パーパスは英語で示されているため、海外への意識も強く感じられます。
【参考】株式会社バンダイナムコグループホールディングス『「パーパス」の制定とコーポレートロゴマークの変更を決定 』
豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。
2022年、株式会社ミクシィはコーポレートブランドのリニューアルに際し、新たにパーパスを制定しました。
BANDAI NAMUKOと同様にロゴも一新しており、新たなロゴでは、パーパスを視覚的なデザインとして盛り込んでいます。
パーパスやミッションなどは一文で簡潔にアピールしながら、その背景や理由を具体的に説明しているため、対外的にメッセージが伝わりやすい構造となっています。
【参考】株式会社ミクシィ『コーポレートブランドリニューアルのお知らせ』
【参考】株式会社ミクシィ『MIXIについて』
ずっといっしょに
リラックマなどのオリジナルキャラクターコンテンツを展開するサンエックス株式会社は、2022年10月に創業90周年を迎え、改めてパーパスを制定しました。
すべてひらがなでパーパスが表されているため、多くの人に企業のもつイメージが伝わりやすくなっています。
パーパスが示されるページ下部には、展開しているキャラクターたちの画像が提示されており、企業イメージのブランディングが行われています。
【参考】サンエックス株式会社『パーパス』
いかがでしたか。
本記事では、パーパスについての説明から、パーパス採用を行う方法などについてご紹介してきました。
企業の根幹となるパーパスへの共感度が高い人材を採用することで、ミスマッチの予防や、入社後の業務に対するモチベーションの向上などに繋がります。
社会貢献と企業成長の同時実現を目指すことにも、パーパス採用は役立つでしょう。