採用市場は、企業による優秀な人材の獲得競争が激化していて、採用戦略に力を入れている企業も増えています。
しかし、採用は各企業それぞれ目標が異なるため、普遍的な成功状態がありません。
「選考フローに適性検査を取り入れたが、応募者と事業との親和性がわかりづらい」
「入社後どの部署に配属するかは、本人の希望を尊重したいから、部署の人員構成に偏りが出るのは仕方がない。」
本記事では人材ポートフォリオの作り方だけでなく、生まれた背景や、実際に導入された事例までご紹介します。
人材ポートフォリオとは、企業内の人的資源の構成内容をさします。
様々な経験やスキルをもった社員を適切に配置し、効率的に業績向上を図ることを目指す人材マネジメント手法の1つです。
人材ポートフォリオは
など、人事の要を担います。
具体的には、社内の人材配置に関する分析・設計したデータが「人材ポートフォリオ」です。
人材ポートフォリオの作成は、人や時間的コストがかかるタスクです。
そのため「今は必要ない」、「作成する人員を割いている場合ではない」と優先順位を下げて考える人事担当者の方もいらっしゃると思います。
しかし、これからの企業経営では必ず必要になる分析です。
その理由を下記にて紹介していきます。
今の50-60代の方が就活生だった時代は、男性が主な働き手でした。
会社のために時間と体力を費やして、どれだけ「会社」に貢献できるかが社会人の在り方だったと思います。
しかし現在は労働力人口の減少で、人材は売り手市場、さらに女性が働くことも一般的となり多様な働き方、雇用形態が求められるようになりました。
外国人労働者など幅広い人材の進出もあり、企業は日々人材の変化に対応が必要です。
労働市場が売り手なことからも、転職を考える方も増加していて、労働人生を会社へ尽くすようないわゆる「終身雇用」の考え方も薄れてきています。
これらのことから、企業が採用活動を行う際に「どのような人材」を求めているか人材ポートフォリオを使って明確にしていく必要があるのです。
新たに人材を集める場合、どのような部署、プロジェクトが人手を必要としているのか把握する必要があります。
売り手市場で、いつでも好きなだけ人材が確保できるわけではないため、会社の経営方針をもとに、今後注力する事業・プロジェクトを絞り込み、優先的に採用を行いましょう。
社内人事を最適化できます。
社内人事の最適化は新規の採用だけでなく、現在勤務している社員のモチベーションを上げることにもつながり、業績の向上、離職者を減らす効果も期待できるでしょう。
大企業に比べて人数がそこまで多くない中小企業では、人事マネジメントは人事の裁量に任せている場合が少なくありません。
「これまで上手くいっていたから」、「現在人事業務に割く人材、時間の余裕がないから先送りに」など人事や役員のかたの解釈でないがしろにするのは危険です。
仮に「優秀な人材」を新たに主要事業へ補充しようと考えるとき何が優秀なのか考える必要があります。
「優秀」だけでも様々な定義ができ、
などがあるでしょう。
また、他の企業も同様に優秀な人材を求めています。
有名大手企業、福利厚生の充実した大企業と比べると、資金、人的資源が少ない中小企業の場合は、人材獲得が不利です。
だからこそ、ピンポイントで必要な人材を絞って採用していくことが中小企業には大切になります。
「人材版伊藤レポート」とは、収益性を上げるための必要な組織体制について特化した報告書のことです。
そもそも「伊藤レポート」とは、2014年に伊藤邦雄一橋大学教授(当時)が座長とした、経済産業省の報告書のことをいいます。
経済産業省が日本企業の収益性の停滞を危惧し、どうすれば改善できるか方向性を日本企業に示す目的で作成されました。
2022年5月に第二弾の「人材版伊藤レポート2.0」が公表され多くの経営者に読まれています。
いよいよ、人材ポートフォリオを作成していきます。
何から手を付ければいいか分からない方も、一旦こちらの作り方を参考にしていただいて、自社独自のポートフォリオを作成していってください。
会社の中長期な経営目標に沿って、人材ポートフォリオを作成して何を達成したいか、明確にしましょう。
目的を決めることで、作成後、活用後に振り返りを行った際、その目的を達成できたか確認ができます。
達成の有無によって次回以降の採用活動をどのように行っていくか、再計画するのにもつかえるので、現時点での活用目的を立てることをオススメします。
ポートフォリオにおいて最も重要なポイントともいえるのが、人材タイプの分類です。
設定した目的をもとに、自社の現在から将来にかけて必要な人材のタイプを考えていきます。
部署やプロジェクトによって、仕事の性質は異なるでしょう。
仕事の性質を分ける一般的な方法として、「個人と組織」「創造と運用」で分けていく例を紹介します。
片方には業務を行う人数「個人で行う↔組織・チームで行う」
もう片方には業務のタイプ「新規企画や商品設計↔運用中事業の管理・改善」
を設定すると、縦軸と横軸のタイプ掛け合わせにより、4つの分類ができます。
・組織✕運用 :オペレーション人材
日々上司から与えられた日常業務をこなして、会社の運営の一端を担っている人材です。
アルバイトや派遣社員を含めると、日本企業に最も多い人材です。
アルバイトを想像していただくと分かり易いように、業務内容が決まっていて、教育制度も整っているので、人員補充も比較的容易でしょう。
・組織✕創造 :マネジメント人材
現状の自分や自分がいる組織の立ち位置を理解し、自分が何をすべきか自ら考え、提案や意思決定を行える人材です。
将来の経営幹部候補と表現されることもあります。
慣用句に「鉄は熱いうちに打て」とありますが、マネジメント人材の育成は実は早いうちから行われる場合が多いです。
20代の間に子会社やプロジェクトのマネジメント経験を積ませて、実績を積んだ社員からより高いポジションを与えていくような制度を作成することで、マネジメント人材のさらなる強化が見込まれます。
・個人✕運用 :エキスパート人材
特定の分野の専門家として組織の運営に関わる人材です。
オペレーション人材が経験を積んで、特定の分野の専門性をもつことでエキスパート人材になることが多いでしょう。
1つの分野の業務をきわめてベテラン社員になった方が、特定のプロジェクトで、後輩育成や安定した組織運営に貢献する様子が分かり易いかと思います。
多くのオペレーション人材が経験を積んでエキスパート人材になることから、新卒採用を通して人材育成をすることで社内のエキスパート人材を増やしていく方法が一般的です。
・個人✕創造 :オフィサー人材
組織の改革、新規プロジェクトなど、新たな方向へ経営戦略を立てる際に、個人の創造性によって貢献する人材です。
クリエイティブ人材とも表現されることがあります。
個人の能力次第で、与えられる環境、業務内容、処遇なども変わってくるので、一定水準以上の能力を発揮できる方は、特定の企業に属さず、業務委託という形で働くこともあるでしょう。
オフィサー人材は企業の即戦力でもあるので、中途採用で人員を獲得し、社内環境に刺激をあたえる存在となることが期待されます。
分類方法が決定したら、内部の現状分析に移ります
「職能、得意不得意」や「性格、部署の適性」は定性的で、判断する人が変わると評価も変わることがあり、分類が難しいです。
そのため人間の感情や関係を取り除いて判断する方法が必要になります。
客観的かつ数値的に判断できるツールとして、適性検査による分類が一般的です。
適性検査のような客観的な分類は信頼性も高く、働き手の納得感も得られるので、新卒採用だけでなく、社内人材の分析にも適性検査を活用することをオススメします。
新卒採用で用いられることが多い適性検査ですが、各テストに特徴があり、自社の目的に沿った選び方が大切です。
【参考】【企業向け】結局どれを使うべき?新卒採用で使える適性検査15選!
一方で部署の適性は、個人の要因だけでなく、組織の雰囲気や人間関係も関わってきます。
どんなに適性のある業務だったとしても、関係の悪い人と一緒に働くと、その社員のパフォーマンスも下がってしまいます。
そこで活用されるのが360度評価制度というものです。
360度評価というのは、複数の立場の異なる関係者が1人の従業員の判断を行う評価方法のことをいいます。
一般的な評価方法は主に上司が判断しますが、360度評価は上司だけでなく同僚や部下も評価をする側に回るので、多面的に評価が可能です。
詳しい方法については参考ページをご覧ください。
【出典】360度評価のメリット・デメリット│効果的に運用する方法とは?
社内の現状把握ができたら、過不足の確認をします。
これから力を入れていくプロジェクトや、一旦縮小させていこうとする事業など序盤で整理した今後の経営戦略から、本来必要な人数構成を割り振って、懸念点があるか確認をしましょう。
考えやすくするために理想的な人材ポートフォリオを作成してみると良いです。
人員配分に偏りがある、特定の職種の高齢化、若手育成環境など普段何気なく意識されている問題が顕在化して見えると思います。
この時点で問題がはっきりわからなかったり、経営戦略に必要な人材が不明確な場合は、手順を振り返ったり、経営層と話し合いましょう。
焦って曖昧な決定をせず、時間がかかっても基盤を固めることが、最終的な採用活動の成功につながります。
現状の人数構成で過不足があった場合、理想的な人材ポートフォリオへ近づけるために調整できる施策を考えます。具体的には、採用、育成、配置転換、解雇などです。
対応:会社の方針と社員の働く価値観が合わない、求めているパフォーマンスにとどいておらず、今後も改善の見込みがない場合に会社を辞めてもらう(早期退職の推奨、役職定年制度など)
解雇の場合は退職を促すことが一般的で、人事担当者が一方的に解雇させることは日本の法律では難しいです。
さらに、一度の解雇が社員の会社に対する印象を変えてしまう場合があるので、慎重に行う必要があります。
対応:外部から人材を補充する(新卒採用、中途採用、アルバイト採用、派遣契約採用等)
一度採用した社員は社員の意思が変わらない限り、定年退職までその会社で働くことができます。
だからこそ、採用のタイミングが非常に重要です。
これから共に働く仲間を集める採用活動で、お互いに入社して(してくれて)よかったと思える人材になるように、採用する人を丁寧に見極めていきましょう。
対応:現状から理想的な人材へ成長してもらうために社員を鍛える(研修、人事評価など)
育成や配置転換は、現状最適ではない人材を、最適に近づけるための手段です。
育成は主に新入社員に行う場合が多いですが、ジョブチェンジを社内で行う場合は、複数年勤務の社員にも該当します。
社員のありたい姿、なりたい将来像と企業が必要とする人材像が重なるときに育成の効果が高いです。
対応:各社員が最高のパフォーマンスを発揮できるように適した環境へ移動(部署移動、出向、転勤など)
「適材適所」という言葉がまさにその通りで、その社員にとって最適な環境へ配置することで、社員のパフォーマンスの効果を最大化する施策です。
育成よりも時間や費用的なコストが小さく、自分の将来像が不明瞭な社員に対しても部署を入れ替えることで社員のパフォーマンスに効果が得られます。
人材が過剰なときは、解雇ではなく、配置転換によって調整していきましょう。
人、資金、時間を費やしてポートフォリオを作成するため、相応のメリットがないとやってられないと思う方もいらっしゃると思います。
なぜ取り組む企業が一定数いるのか、自社が作成する目的確認のためにも参考にしてください。
現状事業が問題なく遂行している部署・プロジェクトでも、配属された社員は「正直自分の興味や得意と合わない」と感じているかもしれません。
配属の最適化は社員のパフォーマンスを向上させる効果が期待されます。
誰にでも得意な作業、苦手な分野はあります。同じ部署の全員が同じ得意不得意とも限りません。
さらに、経験を積むごとに能力は変化していくので、現状を定期的に把握して常に配置をアップデートしていくことが理想的です。
地道で大変な取り組みですが、人材配置の最適化は、会社や事業の効率的な成長につなげるだけでなく、中長期的な人材育成に効果があります。
企業が長く事業を続けていくためにも、社員のスキルアップ、キャリアアップを考えていきましょう。
目指すキャリア(選んでいく仕事、働き方)を実現するためには、キャリアに必要な経験を積むことが必要です。
やりたい仕事だけ選べるほど会社の人事に余裕はないにしても、ある程度本人の能力に見合った配属をしていくことが、会社・社員両者にとって大切になります。
各社員が目指す目標、現状の得意不得意を正確に把握し、その社員に合ったキャリアパスを描くことが人材ポートフォリオで可能です。
各社員が求めるキャリアを考慮して配属をすることで、社員が他社でも通用するほどキャリアアップしても、自社内で働き続ける方がメリットになるため、優秀な人材の社内定着にもつながります。
人材ポートフォリオは人材の過不足を的確にマネジメントできます。
人材ポートフォリオの作成によって、自社に多くいる人材、足りない人材を把握でき、過不足しているプロジェクトや部署に対して、採用や配置など適切な対応をとることが可能です。
また、向き紅葉の社員と雇用期間が限られている派遣スタッフの役割を明確にすることで、人材を最大限に活用することができ、結果的に人件費削減にもつながります。
次に人材ポートフォリオにおける事例を紹介していきます。
1つの組織にどれだけ居続けたいかと、その人の専門性を掛け合わせた事例です。
掛け合わせた4つのイメージを表示します。
企業が求める人材の職業能力と、その分野の専門性を掛け合わせた事例です。
業務によって、社員がやるべきなのか、アルバイトでもできるものなのか見極めて振り分けましょう。
※ここで説明する能力の高低は、「会社が求めている能力を発揮してくれる人材か」なので、その個人の能力の高低だけでは判断できません。
人材ポートフォリオを実際に導入している企業を紹介します。
花王グループでは2021年度より、新しい評価制度や目標管理の仕組みを導入することにより従業員ひとりの挑戦をサポートしています。
新しい制度の大きな目的は、従業員一人ひとりの取り組みや貢献を評価することです。
人材ポートフォリオを設計・運用する時の注意点を5つ解説します。
人材ポートフォリオを作成・運用するためには、ある程度コストがかかります。
人材ポートフォリオの設計に加えて、人材ポートフォリオを活用する際には、社員の共感も必要です。
運用するためには、人事が中心となって企業全体で時間をかけて取り組むのが基本です。
すぐに効果が出るとは限らず、時間と費用を確保した上で長期的に取り組まなければなりません。
従業員への負荷や予算などのリソースを考慮した上で、人材ポートフォリオの作成に着手すると良いでしょう。
人材ポートフォリオ作成における目的の設定でも紹介しましたが、今後の会社の方向性は人材ポートフォリオ作成に不可欠です。
経営戦略を反映させて、今後自社に必要になる人材を見極めていきましょう。
勘違いされがちですが、人材ポートフォリオは社内人材の評価に用いるものではありません。
本来の目的以外で特定の社員への優遇や、ペナルティを課すことにつながると、社内の不安や不信感につながる可能性があるので、配慮しましょう。
ポートフォリオ分析を正社員のみに行うことは、あまりおすすめしません。
企業経営に関わる人材全員を把握する必要があるので、派遣社員、パートアルバイトも含めて分析しましょう。
実際、オペレーション人材の多くはパートアルバイトの方々が担っています。
ポートフォリオ作成に、時間がかかると記載したのは、このような大量の分析を行う場合があるためです。
社員の適材適所を考える際に、社員本人の意思も可能な限り考慮しましょう。
企業側の都合だけで作成してしまうと、その後社員が離職して新たに欠員が出てしまう可能性があります。
社員個人のキャリアを理解して、その成長を後押しできるような姿勢を見せていくことで、優秀人材が社内に残って組織運営に携わってくれるでしょう。
あまりなじみのない言葉だった人材ポートフォリオについて、理解は進んだでしょうか。
何事も、やってみなければわからないと言うので、内容をみて必要かも!と思ったら行動に移すことが大事かもしれません。
ぜひ1度だけでなく、何度も読み返していただいて理解を深めながら、作成してみてください。
MatcherScoutとは、OB・OG訪問サービス「Matcher」に登録している学生に向けてスカウトを送ることができる、ダイレクトリクルーティングサービスです。
MatcherScoutは
といった特徴があります。
必要な人材を絞ってスカウトを送ることも可能です。
詳しいサービスの内容については3分でわかるMatcherScout
をご覧ください。