知識ゼロから始める人材ポートフォリオ設計。作り方のポイント5選
2022/04/18
採用市場は、企業による優秀な人材の獲得競争が激化していて、採用戦略に力を入れている企業も増えています。しかし、採用は各企業それぞれ目標が異なるため、普遍的な成功状態がありません。

「選考フローに適性検査を取り入れたが、応募者と事業との親和性がわかりづらい」
「入社後どの部署に配属するかは、本人の希望を尊重したいから、部署の人員構成に偏りが出るのは仕方がない。」

このような状況に至っている場合、一度人材ポートフォリオを見直してみましょう!

本記事では人材ポートフォリオの作り方だけでなく、生まれた背景や、実際に導入された事例までご紹介します。

人材ポートフォリオとは

人材ポートフォリオは社員の適切な配置、育成、採用を行うために必要な基盤となる情報のことです。

具体的には企業が今後の事業戦略を遂行させていくために、「どういった人材」「いつまでに(いつから)」「何人」必要になるか分析をした情報のことを指します。

weblio辞書には

「人材ポートフォリオ」とは、事業活動に必要な人材タイプを明確化した上で、組織内の多様な人的資源を分類し、どの人材タイプがそれぞれ何人いるか、あるいは必要となるかを分析したもの。

と記されています。

引用元:人材ポートフォリオ 人事労務用語辞典 Weblio辞書

人材タイプとは、このポートフォリオを作成する際に設定する「人材の特徴」のことです。

設定の仕方によって同じ人でも別の観点で認識されることになるので、このタイプの設定も大事になります。
後ほど具体的な設定方法、例を紹介します。

人材ポートフォリオ作成の目的

人材ポートフォリオの作成は、人や時間的コストがかかるタスクです。
そのため「今は必要ない」、「作成する人員を割いている場合ではない」と優先順位を下げて考える人事担当者の方もいらっしゃると思います。

しかし、これからの企業経営では必ず必要になる分析だと断言します。

その理由を下記にて紹介していきます。

働き方の多様化に対応するため

今の50-60代の方が就活生だった時代は、男性が主な働き手でした。
会社のために時間と体力を費やして、どれだけ「会社」に貢献できるかが社会人の在り方だったと思います。

しかし現在は労働力人口の減少で、人材は売り手市場、さらに女性が働くことも一般的となり、多様な働き方、雇用形態が求められるようになりました。

女性だけでなく、外国人労働者など幅広い人材の進出もあり、企業は日々人材の変化に対応が必要となっています。

労働市場が売り手なことからも、転職を考える方も増加していて、労働人生を会社へ尽くすようないわゆる「終身雇用」の考え方も薄れてきています。

これらのことから、企業が採用活動を行う際に「どのような人材」を求めているか人材ポートフォリオを使って明確にしていく必要があります。

人材の過不足把握、適材適所への配置

人材配置を考える様子

新たに人材を集める場合、どのような部署、プロジェクトが人手を必要としているのか把握する必要があります。

売り手市場で、いつでも好きなだけ人材が確保できるわけではないため、会社の経営方針をもとに、今後注力する事業・プロジェクトを絞り込み、優先的に採用を行いましょう。

そのためにも社内の人材配置を正確に把握することで、人員補充の必要性、人が過剰になっている部署はないかを理解し、社内人事を最適化できます。

社内人事の最適化は新規の採用だけでなく、現在勤務している社員のモチベーションを上げることにもつながり、業績の向上、離職者を減らす効果も期待されます。

「中小企業だから利用しない」は間違い

大企業に比べて人数がそこまで多くない中小企業では、人事マネジメントは人事の裁量に任せている場合が少なくありません。

「これまで上手くいっていたから」、「現在人事業務に割く人材、時間の余裕がないから先送りに」など人事や役員のかたの解釈でないがしろにするのは危険です。

仮に「優秀な人材」を新たに主要事業へ補充しようと考えるとき、何が優秀なのか考える必要があります。

人とのコミュニケーションが優れている、現状を客観的に分析してロジックを立てた課題の打開策を考えられる、実務経験(インターンなど)があるなど「優秀」だけでも様々な定義ができます。

また、他の企業も同様に優秀な人材を求めています。
有名大手企業、福利厚生の充実した大企業と比べると、資金、人的資源が少ない中小企業の場合は、人材獲得が不利です。

だからこそ、ピンポイントで必要な人材を絞って採用していくことが中小企業には大切になります。

人材ポートフォリオのメリット

人、資金、時間を費やしてポートフォリオを作成するため、相応のメリットがないとやってられないと思う方もいらっしゃると思います。

なぜ取り組む企業が一定数いるのか、自社が作成する目的確認のためにも参考にしてください。

メリット1:社員、事業のパフォーマンス向上

現状事業が問題なく遂行している部署・プロジェクトでも、配属された社員は「正直自分の興味や得意と合わない」と感じているかもしれません。

配属の最適化は社員のパフォーマンスを向上させる効果が期待されます。

誰にでも得意な作業、苦手な分野はあります。同じ部署の全員が同じ得意不得意とも限りません。
さらに、経験を積むごとに能力は変化していくので、現状を定期的に把握して常に配置をアップデートしていくことが理想的です。

地道で大変な取り組みですが、人材配置の最適化は、会社や事業の効率的な成長につなげるだけでなく、中長期的な人材育成に効果があります。

企業が長く事業を続けていくためにも、社員のスキルアップ、キャリアアップを考えていきましょう。

メリット2:社員が求めるキャリアパスを考慮できる

考える様子

目指すキャリア(選んでいく仕事、働き方)を実現するためには、キャリアに必要な経験を積むことが必要です。
やりたい仕事だけ選べるほど会社の人事に余裕はないにしても、ある程度本人の能力に見合った配属をしていくことが、会社・社員両者にとって大切です。

各社員が目指す目標、現状の得意不得意を正確に把握し、その社員に合ったキャリアパスを描けるメリットが人材ポートフォリオにはあります。

各社員が求めるキャリアを考慮して配属をすることで、社員が他社でも通用するほどキャリアアップしても、自社内で働き続ける方がメリットになるため、優秀な人材の社内定着にもつながります。

メリット3:採用の効率化

部署・プロジェクトごとの人材の過不足を把握することで、採用にかかる時間やコストを削減できるメリットがあります。

採用目標が曖昧になると、経費に対して余分に人材を採用したり、優先的に必要だった部署が人材不足になったりと、採用の効果が下がってしまいます。
限られた資金や人員で採用目標を達成させるためにもポートフォリオ作成は必要になるでしょう。

人材ポートフォリオの作り方

いよいよ、人材ポートフォリオを作成していきます。
何から手を付ければいいか分からない方も、一旦こちらの作り方を参考にしていただいて、自社独自のポートフォリオを作成していってください。

目的の設定

紹介した「作成の目的」、「メリット」をみて、どの内容が一番刺さりましたか?
会社が最も叶えたい課題点はありますでしょうか。

会社の中長期な経営目標に沿って、人材ポートフォリオを作成して何を達成したいか、明確にしましょう。

目的を決めることで、作成後、活用後に振り返りを行った際、その目的を達成できたか確認ができます。
達成の有無によって次回以降の採用活動をどのように行っていくか、再計画するのにもつかえるので、現時点での活用目的を立てることをオススメします。

人材タイプの分類

ポートフォリオにおいて最も重要なポイントともいえるのが、人材タイプの分類です。
設定した目的をもとに、自社の現在から将来にかけて必要な人材のタイプを考えていきます。

部署やプロジェクトによって、仕事の性質は異なると思います。
仕事の性質を分ける一般的な方法として、「個人と組織」「創造と運用」で分けていく例があります。

以下の図のように軸を2つ用意します。
片方には業務を行う人数「個人で行う↔組織・チームで行う」を、もう片方には業務のタイプ「新規企画や商品設計↔運用中事業の管理・改善」を設定します。

人材タイプの分類表

すると、縦軸と横軸のタイプ掛け合わせにより、4つの分類ができます。

・組織✕運用 :オペレーション人材
日々上司から与えられた日常業務をこなして、会社の運営の一端を担っている人材です。
アルバイトや派遣社員を含めると、日本企業に最も多い人材です。

アルバイトを想像していただくと分かり易いように、業務内容が決まっていて、教育制度も整っているので、人員補充も比較的容易です。

・組織✕創造 :マネジメント人材
現状の自分や自分がいる組織の立ち位置を理解し、自分が何をすべきか自ら考え、提案や意思決定を行える人材です。
将来の経営幹部候補と表現されることもあります。

慣用句に「鉄は熱いうちに打て」とありますが、マネジメント人材の育成は実は早いうちから行われる場合が多いです。

20代の間に子会社やプロジェクトのマネジメント経験を積ませて、実績を積んだ社員からより高いポジションを与えていくような制度を作成することで、マネジメント人材のさらなる強化が見込まれます。

・個人✕運用 :エキスパート人材
特定の分野の専門家として組織の運営に関わる人材です。
オペレーション人材が経験を積んで、特定の分野の専門性をもつことでエキスパート人材になることが多いです。

1つの分野の業務をきわめてベテラン社員になった方が、特定のプロジェクトで、後輩育成や安定した組織運営に貢献する様子が分かり易いかと思います。

多くのオペレーション人材が経験を積んでエキスパート人材になることから、新卒採用を通して人材育成をすることで社内のエキスパート人材を増やしていく方法が一般的です。

・個人✕創造 :オフィサー人材
組織の改革、新規プロジェクトなど、新たな方向へ経営戦略を立てる際に、個人の創造性によって貢献する人材です。クリエイティブ人材とも表現されることがあります。

個人の能力次第で、与えられる環境、業務内容、処遇なども変わってくるので、一定水準以上の能力を発揮できる方は、特定の企業に属さず、業務委託という形で働くことがあります。
オフィサー人材は企業の即戦力でもあるので、中途採用で人員を獲得し、社内環境に刺激をあたえる存在となることが期待されます。

社内人材のタイプ振り分け

人材の振り分け

分類方法が決定したら、内部の現状分析に移ります。

職種や参加プロジェクト、その業績など客観的事実は把握しやすく、分類も容易ですが、「職能、得意不得意」や「性格、部署の適性」は定性的で、判断する人が変わると評価も変わることがあり、分類が難しいです。

そのため人間の感情や関係を取り除いて判断する方法が必要です。
客観的かつ数値的に判断できるツールとして、適性検査による分類があります。

新卒採用で用いられることが多い適性検査ですが、各テストに特徴があり、自社の目的に沿った選び方が大切です。

適性検査のような客観的な分類は信頼性も高く、働き手の納得感も得られるので、新卒採用だけでなく、社内人材の分析にも適性検査を活用することをオススメします。

参考URL:【企業向け】結局どれを使うべき?新卒採用で使える適性検査15選!

一方で部署の適性は、個人の要因だけでなく、組織の雰囲気や人間関係も関わってきます。
どんなに適性のある業務だったとしても、関係の悪い人と一緒に働くと、その社員のパフォーマンスも下がってしまいます。

そこで活用されるのが360度評価制度というものです。
360度評価というのは、複数の立場の異なる関係者が1人の従業員の判断を行う評価方法です。

一般的な評価方法は主に上司が判断しますが、360度評価は上司だけでなく同僚や部下も評価をする側に回るので、多面的に評価ができます。

詳しい方法については参考ページをご覧ください。

参考URL:RELO総務人事タイムズ 360度評価のメリット・デメリット│効果的に運用する方法とは?

タイプの偏りをみて、理想と現状のギャップを明確化

社内の現状把握ができたら、過不足の確認をします。
これから力を入れていくプロジェクトや、一旦縮小させていこうとする事業など序盤で整理した今後の経営戦略から、本来必要な人数構成を割り振って、懸念点があるか確認をします。

考えやすくするために理想的な人材ポートフォリオを作成してみると良いでしょう。
現状と理想を比べることが、問題を見つける近道です。

人員配分に偏りがある、特定の職種の高齢化、若手育成環境など普段何気なく意識されている問題が顕在化して見えると思います。

この時点で問題がはっきりわからなかったり、経営戦略に必要な人材が不明確な場合は、手順を振り返ったり、経営層と話し合う必要があると思います。

焦って曖昧な決定をせず、時間がかかっても基盤を固めることが、最終的な採用活動の成功につながります。

ギャップを埋めるうち手の考案

現状の人数構成で過不足があった場合、理想的な人材ポートフォリオへ近づけるために調整できる施策を考えます。具体的には、採用、育成、配置転換、解雇などがあります。

理想的な人材ポートフォリオに近づけるためのアイデア

解雇

対応:会社の方針と社員の働く価値観が合わない、求めているパフォーマンスにとどいておらず、今後も改善の見込みがない場合に会社を辞めてもらう(早期退職の推奨、役職定年制度など)

解雇の場合は退職を促すことが一般的で、人事担当者が一方的に解雇させることは日本の法律では難しいです。
さらに、一度の解雇が社員の会社に対する印象を変えてしまう場合があるので、慎重に行う必要があります。

採用

対応:外部から人材を補充する(新卒採用、中途採用、アルバイト採用、派遣契約採用等)

一度採用した社員は社員の意思が変わらない限り、定年退職までその会社で働くことができます。
だからこそ、採用のタイミングが非常に重要です。

これから共に働く仲間を集める採用活動で、お互いに入社して(してくれて)よかったと思える人材になるように、採用する人を丁寧に見極めていきましょう。

育成

対応:現状から理想的な人材へ成長してもらうために社員を鍛える(研修、人事評価など)

育成や配置転換は、現状最適ではない人材を、最適に近づけるための手段です。

育成は主に新入社員に行う場合が多いですが、ジョブチェンジを社内で行う場合は、複数年勤務の社員にも該当します。

社員のありたい姿、なりたい将来像と企業が必要とする人材像が重なるときに育成の効果が高いです。
これは社員が自分の成長に積極的かつ、企業もそういった人材を育てることに協力的なので、時間や費用を割いてでも社員育成に力を入れるためです。

配置転換

対応:各社員が最高のパフォーマンスを発揮できるように適した環境へ移動(部署移動、出向、転勤など)

「適材適所」という言葉がまさにその通りで、その社員にとって最適な環境へ配置することで、社員のパフォーマンスの効果を最大化する施策です。

育成よりも時間や費用的なコストが小さく、自分の将来像が不明瞭な社員に対しても部署を入れ替えることで社員のパフォーマンスに効果が得られます。

人材が過剰なときは、解雇ではなく、配置転換によって調整していきましょう。

作り方のポイント5選

前の章でお伝えした手順に加えて、気を付けた方がいいこと、意識してほしいことをまとめておきます。

比較を示す画像

①完成の早さよりも質を高める

人材ポートフォリオを作成するには、社員の協力や経営者の理解、人事担当者を含む多くの社員に負荷がかかることを理解しましょう。

一朝一夕で完成するものではないため、早くできればよいものでもありません。

序盤でも説明しましたが、作成することが目的ではなく、作成したポートフォリオを制度設計や採用に活かして、効果が発揮されることが目的です。

時間、費用面で会社に負荷がかかることを理解したうえで、作成を心がけましょう。

②経営戦略を反映させる

人材ポートフォリオ作成における目的の設定でも紹介しましたが、今後の会社の方向性は人材ポートフォリオ作成に不可欠です。

経営戦略を反映させて、今後自社に必要になる人材を見極めていきましょう。

③社員の優劣をはかる道具ではない

勘違いされがちですが、人材ポートフォリオは社内人材の評価に用いるものではありません。

本来の目的以外で特定の社員への優遇や、ペナルティを課すことにつながると、社内の不安や不信感につながる可能性があるので、配慮しましょう

④すべての雇用形態の社員を対象にする

ポートフォリオ分析を正社員のみに行うことは、あまりおすすめしません。

企業経営に関わる人材全員を把握する必要があるので、派遣社員、パートアルバイトも含めて分析しましょう。
実際、オペレーション人材の多くはパートアルバイトの方々が担っている場合が多いです。

ポートフォリオ作成に、時間がかかると記載したのは、このような大量の分析を行う場合があるためです。

⑤従業員の意思や要望も反映する(社員からの不満)

社員の適材適所を考える際に、社員本人の意思も可能な限り考慮しましょう。
企業側の都合だけで作成してしまうと、その後社員が離職して新たに欠員が出てしまう可能性があります。

企業は社員との協力関係で成り立っています。社員個人のキャリアを理解して、その成長を後押しできるような姿勢を見せていくことで、優秀人材が社内に残って組織運営に携わってくれると考えられます。

人材ポートフォリオの事例紹介

次に人材ポートフォリオにおける事例を紹介していきます。

会議の様子

①組織定着度✕専門性

1つの組織にどれだけ居続けたいかと、その人の専門性を掛け合わせた事例です。
アルバイトなら在学期間中、社員なら5年から10年ほどなど、定着期間は人それぞれです。

掛け合わせた4つのイメージを表示します。

・定着度低い✕専門性低い=補助人材(短期的人員補充:アルバイトなど)
・定着度高い✕専門性低い=若手人材(これから能力を磨いていく:新入社員など)
・定着度低い✕専門性高い=アドバイザー人材(高い能力で一時的に協力関係:業務委託、契約社員、外部顧問)
・定着度高い✕専門性高い=主要人材(高い専門性で社内文化にも精通:ベテラン正社員)

②求められる能力✕業務の専門性

企業が求める人材の職業能力と、その分野の専門性を掛け合わせた事例です。
業務によって、社員がやるべきなのか、アルバイトでもできるものなのか見極めて振り分けることが大切です。
※ここで説明する能力の高低は、「会社が求めている能力を発揮してくれる人材か」なので、その個人の能力の高低だけでは判断できません。

・能力高い✕専門性低い=総合職正社員
・能力低い✕専門性低い=パートアルバイト
・能力高い✕専門性高い=技術職正社員、総合職ベテラン正社員
・能力低い✕専門性高い=派遣業務、契約社員

おわりに

あまりなじみのない言葉だった人材ポートフォリオについて、理解は進んだでしょうか。

何事も、やってみなければわからないと言うので、内容をみて必要かも!と思ったら行動に移すことが大事かもしれません。

ぜひ1度だけでなく、何度も読み返していただいて理解を深めながら、作成してみてください。