労働条件通知書とは
「労働条件通知書」とは、企業が労働者との間で雇用契約を結ぶ際に労働者に交付する、労働条件を記載した書面です。
企業と労働者の間で労働条件に関する無用なトラブルを避けるために発行されます。
ただし、労働条件通知書の様式は自由とされており、明示すべき事項が記載されていれば基本的に問題はありません。
労働条件通知書に発行義務はあるのか
企業は雇用する労働者に対して労働条件通知書を発行する義務があります。
これは、労働基準法の第15条第1項と労働基準法施⾏規則第5条に「労働者を採用するときには労働条件を明示しなければならない」と定められているためです。
企業が労働者に対して労働条件を明示しないことは労働基準法違反となり、労働基準法第120条1号により30万円以下の罰金が科される場合があるため注意しましょう。
労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書に類似した書類に「雇用契約書」がありますが両者は根拠となる法律が異なります。
雇用契約書は民法に準拠した、捺印や署名を持って企業と労働者の双方が労働条件に合意したことを表す「企業と労働者間の契約書」です。
一方、労働条件通知書は労働基準法に準拠した、「労働条件の一方的な通知」です。
加えて、労働条件通知書には発行義務がありますが、雇用契約書は発行義務は生じません。
しかし、企業と雇用者の間で労働条件に合意したことを示す書類を作成した方が無用なトラブルを避けることができるため、交付が推奨されています。
新たに労働者を雇用する場合「労働条件通知書」と「雇用契約書」の両方を作成することが一般的ですが、両者とも決まった様式がないため、まとめて「労働条件通知書兼雇用契約書」としても構いません。
この2つの書面は、記載されている内容も非常に似ていますが、まとめると以下のような違いがあります。
労働条件通知書の発行対象
労働条件通知書は、雇用形態に関わらず、全ての従業員に発行しなければなりません。
これは、労働条件通知書の根拠である労働基準法が、正社員やアルバイト、派遣社員などの雇用形態を問わず、全ての労働者に適用されているからです。
そのため、「正社員じゃないから」という理由で労働条件通知書の発行を怠ることはないように注意しましょう。
労働条件通知書を発行するタイミング
労働条件通知書を発行するタイミングは、労働契約の締結時と有期契約の更新時と定められています。
▼例外
「ハローワークなどへの求人申込」や「自社のホームページで従業員の募集」、「求人広告の掲載」などを行う際には、求人票や募集要項等にて、労働条件を明示する必要があります。
【参考】厚生労働省『職業安定法の改正』
労働条件通知書のテンプレート
近年のテレワークや時短勤務等による働き方の多様化に対応するため、2024年(令和6年)4月1日に「労働基準法施行規則」と「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」が改正されました。
これにより、労働条件通知書にて記載内容に追加事項があるため、従来の労働条件通知書に加筆修正を行う必要があります。
変更の範囲の明示が必要となるのは、2024年(令和6年)4月1日以降に契約締結・契約更新をする全ての労働者が対象となりますが、トラブルを防ぐという面でも、制度改正前から労働契約を結んでいる労働者についても変更の範囲を明示することが推奨されます。
改正に対応したテンプレートを厚生労働省が公開しているため、必要な方はこちらからダウンロードしてください。
【参考】厚生労働省東京事務局「様式集(必要な様式をダウンロードしてご使用ください。)」
改正後の労働条件通知書に必要な明示する記載事項とその書き方
改正後、労働通知書に追加された明示しなければならない事項には、以下の2つに分けられます。
▼労働条件通知書に記載する事項
- 絶対的明示記載事項
- 相対的明示記載事項
ここでは、追加された事項を踏まえて、書類作成が必要な絶対的明示事項についてテンプレートを基に書き方を詳しく解説します。
絶対的明示記載事項
絶対的明示事項とは、労働条件通知書内で必ず明示しなければならない事項です。
次のような項目がありますが、法改正によって変更があったのは以下の1と3になります。
- 労働契約の期間
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
- 就業の場所及び従事すべき業務
- 始業及び就業の時刻、休憩時間、休日等
- 休日・休暇
- 賃金、昇給
- 退職に関する事項
- その他
それぞれの書き方について見ていきましょう。
1.労働契約の期間
労働契約期間の有無を記載します。
テンプレートには期間の定めなし/期間の定めありという選択肢があるので、当てはまるほうに〇をつけてください。
期間の定めがある場合には、次のように記載しましょう。
労働契約の期間の記載例:
期間の定めなし、期間の定めあり(× ×年 △ 月 ⚪︎⚪︎ 日~ ××年△ 月 ⚪︎⚪︎ 日) |
新たに追加された明示事項によると、有期契約労働者を対象に労働契約の期間に関して以下の2つの内容を明記する必要があります。
【更新上限の有無と内容】
更新上限の有無は有期労働契約の締結時と更新時に通算契約期間または更新回数の上限を明記する必要があります。
更新上限の有無と内容の記載例:
更新上限の有無(無・有(更新⚪︎回まで/通算契約期間△年まで)) |
また、更新上限を新設・短縮する場合は、改正雇い止めに関する基準第1条より、その理由をあらかじめ説明する必要があります。
【無期転換申込機会/無期転換後の労働条件】
改正労基則第5条第5項・第6項に基づいて無期転換の申込機会と無期転換後の労働条件を明示する必要があります。
無期転換申込とは、有期労働契約者からの申し込みによって契約期間の定めがない労働契約に転換できるルールのことを指します。
これは、有期労働契約が5年を超えて更新された場合に生じるルールで、使用者はこれを断ることができません。
また、無期転換後の労働条件にて、他の正社員等とのバランスを考慮した事項については説明するように努める必要があります(改正雇い止めに関する基準第5条)。
無期転換申込機会/無期転換後の労働条件の記載例:
本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをすることにより、本契約期間の末日の翌日(⚪︎年△月×日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。 この場合の本契約からの労働条件の変更の有無( 無 ・ 有(別紙のとおり)) |
2.期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
労働条件通知書では、期間の定めのある労働契約を更新するための基準を明記する必要があります。
期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準の記載例:
契約の更新は次により判断する。 ・契約期間満了時の業務量 ・勤務成績、態度 ・能力 ・会社の経営状況 ・従事している業務の進捗状況 ・その他( ) |
3. 就業の場所及び従事すべき業務
労働基準法施行規則の改正によって、雇い入れ直後の就業場所及び従事すべき業務とその変更の範囲を明示する必要があります。
今後の見込みも含めて、労働契約期間中に想定される就業場所と従事すべき業務を明記しましょう。
どこまで就業場所と業務を限定するかによって記載方法が変わるのでそれぞれの例を示します。
就業の場所及び従事すべき業務の記載例:
【就業場所・業務に限定がない場合】
▼就業場所
(雇入れ直後)⚪️⚪️営業所及び労働者の自宅 (変更の範囲)会社の定める営業所 |
▼従事すべき業務
(雇入れ直後)⚪️⚪️に関する業務 (変更の範囲)会社の定める業務 |
※テレワークを行うことが通常想定される場合、就業場所としてテレワークを行う場所が含まれるように明示しましょう。
【就業場所・業務の一部に限定がある場合】
▼就業場所
(雇入れ直後)⚪️⚪️営業所 (変更の範囲)⚪️⚪️県内 |
▼従事すべき業務
(雇入れ直後)運送 (変更の範囲)運送及び運行管理 |
※在籍出向を命じることがある場合、出向先の就業場所や業務が出向元の会社での限定範囲を超える場合、その旨を明示しましょう。
【完全に限定(就業場所や業務の変更が想定されない場合)】
▼就業場所
(雇入れ直後)⚪️⚪️営業所 (変更の範囲)⚪️⚪️営業所 |
▼従事すべき業務
(雇入れ直後)運送 (変更の範囲)雇い入れ直後の従事すべき業務と同じ |
4.始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等
【就業時間】
企業ごとに定める就業時間を明記しましょう。
就業時間の記載例:
1.始業・終業の時刻 始業 (○時○分) 終業 (○時○分) 2.休憩時間 (60分) 3.所定時間外労働の有無 ( 有 ,無 ) |
ただし、シフト制やフレックスタイム制、裁量労働制がある場合には以下の点に注意が必要です。
【変形労働時間制】
適用する種類(1年単位もしくは1カ月単位など)と就業時間を明示してください(交代制でない場合は「・交代制」を二重線で削除)。
【フレックスタイム制】
フレキシブルタイム・コアタイムに加えて、月の所定労働時刻の記入が必要です。
※変形労働時間制やフレックスタイム制は、週の労働時間を平均40時間にしてください(特例措置事業所は44時間)。
労使協定が必要な裁量労働制と事業場外みなし労働時間制は、協定内容を当該労働者に説明しましょう。
複雑になってしまう場合には、別紙を参照することを記載しても問題ありません。
5.休日・休暇
【休日】
土日などの定例の休日を記載します。
非定例の場合、週または月当たり何日休みかを明記しましょう。
休日の記載例:
・定例日;毎週土・日曜日、国民の祝日 または ・非定例日;週・月あたり8日 |
【休暇】
年次有給休暇以外に、夏季休暇のような一時休暇がある場合は記載します。
休暇の記載例:
・年次有給休暇:6ヶ月継続勤務した場合→10日 ・その他の休暇:無給(正月休み 12月30日~1月3日) |
6.賃金、昇給
企業ごとに定める基本給や諸手当の計算方法に加えて、賃金の締切日や支払い日、支払い方法や昇給に関する事項を明記しましょう。
賃金、昇給の記載例:
・基本賃金:月給300,000円 ・賃金締切日(基本給):毎月25日 ・賃金支払い日(基本給):毎月15日 ・賃金支払い方法:銀行振込(本人名義のものに限る) ・昇給 (有(時期、金額等 就業規則第○条に従い昇給する) , 無 ) |
7.退職にかかわる事項
定年制の有無や自己都合退職の手続きや解雇自由などを記載します。
なお、解雇事由を就業規則を参照としても問題はありません。
・定年制(有:60歳) ・定年再雇用制度(有:65歳) ・自己都合退職の手続(退職する14日以上前に届け出ること) ・解雇の事由及び手続き 詳細は就業規則第17条を参照 |
8.その他
社会保険や中小企業退職金共済制度のような保険やその他労働条件に関する記載事項があれば記載しましょう。
・社会保険の加入状況( 厚生年金 健康保険 ・雇用保険の適用( 有 , 雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口 部署名 総務部人事課 担当者職氏名 ⚪︎⚪︎ ⚪︎⚪︎ (連絡先 000 - 0000 - 000) ・その他 |
相対的明示記載事項(定めた場合に明示しなければならない事項)
相対的明示記載事項とは企業がその内容を定めている場合に、明示しなければならない内容です。
書類による明示義務がないため、口頭でも構いませんが、労使トラブルを避けるためにも書類で交付する方が望ましいでしょう。
具体的には以下の項目があります。
- 退職手当
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及び最低金額等
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他
- 安全及び衛生
- 職業訓練
- 災害補填及び業務外の傷病扶助
- 表彰及び制裁
- 休職
労働条件通知書を電子化して交付発行する際の注意点
労働条件通知書の発行には、原則書面による交付が必要ですが、労働者が希望した場合はFAXやメール、SNS等でも明示することができます。
ここでは書類を電子化して交付する際の注意点に関して解説します。
①労働者が希望していること
労働条件通知書の交付は原則として書類による交付が必要でしたが、近年施行された法律に則って電子化による発行も認められるようになりました。
ただし、全員に対して電子的交付が可能かというと、そうではありません。
電子化による交付は労働者が希望している場合に可能であることは注意しましょう。
②第三者の閲覧が不可能であること
第三者が閲覧できるブログや個人のホームページ上に書き込むことによる労働条件の明示は認められていません。
必ず、雇用者1人1人に対して個別で行うようにしましょう。
③労働者がメールの記録を書面化できること
FAXやメールで交付する際は、印刷可能なファイル形式で送付するなど、労働者が労働条件通知書を保管しやすいように工夫をする必要があります。
労働条件通知書の取り扱い方法について
労働条件通知書の保管期間は、労働者が退職もしくは死亡した日から3年間です。
労働者の退職後にトラブルが起きた場合や、労働基準監督署の調査などに対応するために、このような期間が設けられています。
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おわりに
いかがでしたか?
本記事では、今さら聞けない労働条件通知書の記載項目や発行方法について解説しました。
労働条件通知書は、法律で定められた重要な書面です。
不備やトラブルがないように注意して労働条件通知書を発行しましょう。