労働条件通知書とは
「労働条件通知書」とは、企業が労働者との間で雇用契約を結ぶ際に労働者に交付する、労働条件を記載した書面です。
労働基準法の第15条第1項と労働基準法施⾏規則第5条には「労働者を採用するときには労働条件を明示しなければならない」と定められています。
労働条件は原則、書面で交付することが義務づけられているため、労働者を雇用する際には労働条件通知書を作成する必要があります。
労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書と同様に、雇用契約を結ぶ際に作成される書面として「雇用契約書」があります。
新たに労働者を雇用する場合「労働条件通知書」と「雇用契約書」の両方を作成することが一般的です。
この2つの書面は、記載されている内容も非常に似ていますが、以下のような違いがあります。
それぞれについて詳しく見ていきます。
①根拠となる法律
労働条件通知書は労働基準法が根拠となります。
労働基準法第15条では「労働者を採用するときには労働条件を明示しなければならない」と定められており、原則書面で交付することが義務づけられています。
雇用契約書は民法が根拠であり、企業と従業員の間で雇用契約が結ばれたことを証明する書面です。
民法第623条では「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」と定められています。
そのため書類の発行は義務ではありませんが、労働契約法では「労働契約の内容について、できる限り書面によって確認するものとする」と定められています。
②義務か任意か
前述の通り、労働条件通知書は労働基準法によって発行することが義務づけられています。
雇用契約書は、労働契約法で「できる限り書面で確認する」とされているため、発行は任意です。
③契約か通知か
労働条件通知書は、企業が従業員となる人に対して労働条件を明示する書面であるため、企業が一方的に通知するものです。
一方で雇用契約書は、企業と従業員双方の合意による契約です。
雇用契約書は、契約書の規則に沿って書面が2部作成され、企業と従業員がそれぞれ署名捺印をして保管します。
労働条件通知書と雇用契約書は両方発行すべき?
労働条件通知書と雇用契約書は両方とも発行するようにしましょう。
たしかに雇用契約書の発行は任意です。
労働条件通知書と雇用契約書は記載内容も似通っているため、労働条件通知書のみを発行すれば良いのではないかと思う方もいるかもしれません。
しかし、労働条件通知書と雇用契約書は、内容は似ていてもそれぞれの書類が持つ意味は全く異なります。
雇用契約書を発行することで、労働条件に関する同意がとれている証拠になるため、両方を発行するべきです。
両者をまとめて「労働条件通知書兼雇用契約書」として発行することもできますが、その場合は労働条件通知書で通知が義務付けられている内容の記載漏れがないように気をつけましょう。
また、企業と雇用される従業員の双方が記名捺印できる欄を設けておく必要があります。
労働条件通知書を発行する対象者
労働条件通知書の根拠である労働基準法は、正社員やアルバイト、派遣社員など、雇用形態を問わずすべての労働者に適用されます。
そのため労働条件通知書は、雇用形態に関わらずすべての従業員に発行しなければなりません。
労働条件通知書を発行するタイミング
労働条件通知書を発行するタイミングは、労働基準法で労働契約の締結時と定められています。
ただし、ハローワークなどへの求人申込や自社のホームページで従業員の募集や求人広告の掲載などを行う際には、求人票や募集要項等において、労働条件を明示する必要があります。
労働条件通知書の作成が必要な理由
前述のとおり、労働基準法第15条では「労働者を採用するときには労働条件を明示しなければならない」と定められています。
そのため、労働条件通知書を作成し、労働条件を明示する必要があるのです。
労働条件通知書を発行しないとどうなる?
労働条件通知書を発行しない場合、労働基準法第120条1号により、30万円以下の罰金刑が科されます。
労働条件通知書に明示する事項
労働通知書に明示しなければならない労働条件には、
- 絶対的明示記載事項(必ず明示しなければならない事項)
- 相対的明示記載事項(定めた場合に明示しなければならない事項)
の2つがあります。
絶対的明示記載事項(必ず明示しなければならない事項)
以下7つは、必ず明示しなければならない事項です。
また、原則書面で交付することが求められます。
- 契約期間に関すること
- 期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
- 就業場所、従事する業務に関すること
- 始業・終業時刻、休憩、休日などに関すること
- 賃⾦の決定⽅法、⽀払時期などに関すること
- 退職に関すること(解雇の事由を含む)
- 昇給に関すること
- 相対的明示記載事項(定めた場合に明示しなければならない事項)
以下の事項は、労働条件として定めた場合には明示する必要があります。
- 退職手当に関すること
- 賞与などに関すること
- 食費、作業用品などの負担に関すること
- 安全衛生に関すること
- 職業訓練に関すること
- 災害補償などに関すること
- 表彰や制裁に関すること
- 休職に関すること
労働条件通知書に記載する必須項目
以下では、雇用形態に関わらず必ず記載しなければならない項目について解説します。
労働契約の期間
労働契約期間の有無を記載します。
期間の定めなし/期間の定めありという選択肢があるので、当てはまるほうに〇をつけてください。
期間の定めがある場合には、○年○月○日〜○年○月○日のように雇用期間の開始日と終了日を記載しましょう。
契約の更新の有無と更新の条件や、試用期間がある場合には試用期間についても記載します。
就業する場所
労働者が働く具体的な場所を記載します。
労働契約を交わした後に就業場所が変わることもあるかと思いますが、その場合は最初に勤務する場所を記載すれば問題ありません。
雇入れ直後の就業場所であることや転勤の可能性があることを記載しておくと、トラブル防止になるでしょう。
従事すべき業務の内容
開発業務、総務業務などのように具体的な業務内容を記載します。
複数の業務を行う予定がある場合には複数記載したり、「人事事務その他雑務」といった幅のある書き方でも問題ありません。
業務内容についても変わることが予想されますので、就業内容の変更についても記載しておくと親切です。
始業及び就業の時刻
始業 ○時○分 終業 ○時○分
のように具体的な時間を記載します。
休憩時間や、所定労働時間を超える場合があるかについても記載してください。
シフト制やフレックスタイム制、裁量労働制がある場合には以下の点に注意が必要です。
- 変形労働時間制:適用する種類(1年単位もしくは1カ月単位など)を明示してください。
原則として労働する時間の記載が必要です。
交代制でない場合は「・交代制」を二重線で消しましょう。 - フレックスタイム制:フレキシブルタイム・コアタイムにくわえ月の所定労働時刻の記入が必要です。
- 変形労働時間制やフレックスタイム制は、週の労働時間を平均40時間にしてください。
特例措置事業所は44時間です。 - 労使協定が必要な裁量労働制と事業場外みなし労働時間制は、協定内容を当該労働者に説明しましょう。
複雑になってしまう場合には、別紙を参照することを記載しても問題ありません。
休日・休暇
休日や有給休暇などについて記載します。
「当社カレンダーによる」と記載することもできます。
休日・休暇は、労働基準法によって最低限与えなくてはならない日数が定められているため、以下に沿って休日・休暇を設けてください。
- 1週間で1日以上または4週で4日以上の休日
- 1年単位の変形労働時間制を採用している企業は、年間休日を記載する。
- 労働者が6ヶ月継続勤務した場合は、年10日の有給休暇を与える(パート勤務の場合にも勤務日数に応じた有給休暇を与える義務がある)。
- 勤務6ヶ月未満で有給休暇を付与する場合は、条件を明示する。
例)〇ケ月経過で△日付与、など
賃金
基本賃金:月給○○万円
家族手当:○○円(月)
のように具体的な金額を明示します。
諸手当の支給条件や計算方法についても伝えるとトラブル防止に繋がります。
残業代は、残業時の割増賃金に関する計算も記載します。
法定時間内の残業や法定時間外の残業、深夜残業など、それぞれの時間帯ごとの割増賃金率や、みなし残業代についても記載が必要です。
賃金締切日や支払日、支払方法についても記載してください。
退職に関する事項
退職に関して、以下の内容を記載します。
- 定年制度
- 継続雇用制度の有無
- 自己都合による退職の手続き方法
- 解雇事由と手続き方法
その他
社会保険の加入状況や雇用保険の適用について記載します。
その他にも、退職手当や休職に関する定めなど、企業が定めている制度によって記載すべき事項が増えます。
雇用形態ごとの記載項目
以下では、上記の必須項目に加えて、雇用形態ごとに記載が必要になる項目や注意点について解説します。
正社員
試用期間中の労働条件と本採用後の労働条件が異なる場合には、それぞれの労働条件を分けて明示しなければなりません。
後ほどご紹介する労働条件通知書の記入例も参考にしながら、自社の労働条件に合わせて作成してみてください。
派遣社員
派遣労働者には、
- 派遣元企業から派遣労働者に交付する「就業条件明示書」
- 派遣先企業から派遣労働者に交付する「労働条件通知書」
の2種類の書類を交付する必要があります。
就業条件明示書には、業務内容や派遣期間などが明示されています。
この2つの書類は内容が似ているため、派遣元企業によっては「労働条件通知書 兼 終業明示書」と1枚にまとめて交付しているところもあります。
また、派遣労働者は派遣元企業と雇用契約を結んでいますが「派遣先企業と雇用契約を結んでいる」という勘違いが起こりやすいです。
こうしたことからトラブルに発展する可能性もあるため、派遣労働者用の労働条件通知書はよく注意を払って作成し、署名捺印してもらった書類は社内でしっかりと保管しましょう。
パート社員
パート社員などの短時間労働者の労働条件通知書では、先ほど紹介した記載事項に加えて以下の項目を記載します。
- 昇給の有無
- 賞与の有無
- 雇用管理の改善などに関する相談窓口
これらの事項は非正規雇用者にとってトラブルになりやすい事項ですので、自社の状況をよく踏まえた上で労働条件通知書を作成するようにしましょう。
有期契約労働者
有期契約労働者の労働条件通知書では、雇用期間の終了日を明確に記載します。
有期契約社員は、企業も労働者も期間内に一方的に雇用契約を破棄することができません。
定められた期間、企業は労働者の雇用を保証する必要があります。
期間終了後の契約の更新については、
- 自動的に更新する
- 更新する場合がある
- 更新しない
のいずれかを明記します。
2の場合は、更新する条件も記載してください。
外国人労働者
外国人労働者にも労働条件通知書は交付しなければなりません。
日本語だけでなく、英語または労働者の母国語が併記された労働条件通知書を作成すると良いです。
労働条件通知書の発行方法とテンプレート
労働条件通知書の発行方法や、テンプレートと記入例についてご説明します。
労働条件通知書の発行方法
労働条件通知書には決まった書式がないため、自社オリジナルの書面を発行することも可能です。
ただし、労働条件通知書は明示しなければならない項目が決まっているため、不備がないように注意して作成してください。
また、労働条件通知書はFAXやメール、SNSのメッセージ機能などでも交付することができます。
しかし、原則は書面で交付することとなっているため、基本的には書面で発行するようにしましょう。
労働条件通知書のテンプレート
労働条件通知書に決まった書式はありませんが、厚生労働省がテンプレートを用意しています。
【参考】厚生労働省『一般労働者用(常用・有期雇用型)労働条件通知書』
【参考】厚生労働省『一般労働者用(日雇型)労働条件通知書』
【参考】厚生労働省『様式集』
以下は、株式会社カオナビが公開している、厚生労働省のテンプレートをもとにした簡易的な労働条件通知書のサンプルと記入例です。
こちらも参考にしてみてください。
【参考】株式会社カオナビ「労働条件通知書とは?【書き方(記入例)】テンプレ」
FAXやメールで交付する際の注意点
FAXやメール、SNSなどの電磁的方法で労働条件通知書を交付する際には、以下の点に注意が必要です。
①労働者が希望していること
労働者が希望していなければ、FAXやメールで労働条件通知書を交付することはできません。
②受信者を特定して情報伝達ができる電気通信を利用すること
誰でもアクセスできるようなところに労働条件通知書をアップロードすることは認められていません。
③労働者がメールの記録を書面化できること
FAXやメールで交付する際は、印刷可能なファイル形式で送付するなど、労働者が労働条件通知書を保管しやすいように工夫をする必要があります。
労働条件通知書の保管期間
労働条件通知書の保管期間は、労働者が退職もしくは死亡した日から3年間です。
労働者の退職後にトラブルが起きた場合や、労働基準監督署の調査などに対応するために、このような期間が設けられています。
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おわりに
いかがでしたか?
本記事では、今さら聞けない労働条件通知書の記載項目や発行方法について解説しました。
労働条件通知書は、法律で定められた重要な書面です。
不備やトラブルがないように注意して労働条件通知書を発行しましょう。