【事例あり】健康経営とは?制度や実施のポイントをわかりやすく解説
2024/02/29

近年「健康経営」が注目を集めていることをご存知でしょうか?

健康経営とは、従業員の健康状態を良好に保つことで、企業価値や生産性向上につなげる取り組みのことです。

この記事では、健康経営の定義や制度をはじめ、健康経営の実施を検討している方が知っておくべき情報をご紹介します。

<この記事を読むとわかること>

  • 健康経営とは?認定制度とは?
  • 健康経営を行うメリット
  • 中小企業が健康経営を行う際のポイント
  • 健康経営を始める手順
  • 企業規模別の事例
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健康経営とは

まずは、健康経営の意味と、健康経営が注目されるようになった背景について確認していきましょう。健康経営のイメージ画像

健康経営の定義 

健康経営とは、企業が従業員の健康管理を「経営課題」として捉え、改善に取り組むことです。

健康管理を従業員個人に任せるのではなく、他の事業活動と同様に戦略的な活動として投資を行うことで、企業全体の生産性向上を目指します。

【参考】経済産業省「健康経営」

健康経営が注目されている背景

健康経営が提唱され、注目を集めるようになった背景には以下のようなものがあります。

労働人口の減少

少子高齢化の影響で労働人口が減少していることから、従業員ひとり一人の生産性を上げることが企業の急務となっています。

従業員の高齢化

労働人口減少の対策の一つとして、高年齢者の就労が奨励されています。

2013年には定年が65歳に引き上げられましたが、さらに2021年からは「労働者の希望があれば、最長70歳まで定年延長できるようにすること」が企業の努力義務とされています。

そのため、高年齢者でも健康に働ける職場環境を整備する必要性が高まっているのです。

健康問題の表面化

近年、長時間労働による過労死・自殺や裁判などが社会問題になりました。

従業員の健康やストレスへの配慮を求める風潮が強まったことから健康経営が注目を浴びています。

コロナ禍の影響もあり、今後もさらに健康問題への関心は高まっていくでしょう。

健康保険料の上昇

医療費が年々増大していることも要因の一つです。

国民医療費の増加は、健康保険料の上昇という形で企業の経営を圧迫しています。

健康経営の認定制度

健康経営を推進するために、経済産業省は以下のような認定制度を設けています。

  • 健康経営銘柄
  • 健康経営優良法人
  • 健康経営優良法人ホワイト500/健康経営優良法人ブライト500

詳しく解説していきます。

健康経営銘柄 

健康経営銘柄は、東京証券取引所の上場企業の中から、健康経営に優れた企業を選定する制度です。

長期的な視点からの企業価値の向上を重視する企業として紹介され、投資家からの資本が集まりやすくなります。

健康経営銘柄に選定されるためには、毎年8〜10月ごろに実施される健康経営度調査に回答する必要があります。

詳しくは以下をご覧ください。

【参考】経済産業省「健康経営銘柄」

健康経営優良法人認定制度 

健康経営優良法人認定制度は、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度です。

健康経営優良法人として認定されると「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的な評価を受けられます。

また「健康経営優良法人」ロゴマークの使用が可能となり、自社の取り組みを内外にアピールできることも大きなメリットです。

そのほか、健康経営優良法人や健康経営に取り組む企業向けに、自治体や金融機関等において融資優遇などさまざまなインセンティブがあります。

また、健康経営優良法人に認定されるには申請が必要です。

詳しくは以下をご覧ください。

【参考】経済産業省「健康経営優良法人の申請について」

【参考】経済産業省「健康経営優良法人認定制度」

健康経営優良法人ホワイト500/健康経営優良法人ブライト500

健康経営優良法人では、大規模法人の上位500社をホワイト500、中小規模法人の上位500社をブライト500として認定しています。

【参考】経済産業省「健康経営優良法人認定制度」

健康経営優良法人と認定される基準

健康経営優良法人認定制度には、大企業を対象とした大規模法人部門と、中小企業を対象とした中小規模法人部門があります。

ここでは、それぞれの部門で健康経営優良法人と認定されるための評価基準をご紹介します。

<大規模法人部門>

以下に当てはまる企業は大規模法人に該当します。大規模法人の基準

大規模法人部門の認定申請料は、80,000円(税込88,000円)です。

大規模法人のうち、以下の要件を満たした企業が健康経営優良法人として認定されます。健康経営優良法人(大規模法人部門)認定要件

出典:健康経営優良法人認定事務局「健康経営銘柄2024選定基準及び健康経営優良法人2024(大規模法人部門)認定要件」

<中小規模法人部門>

以下に当てはまる企業は中小規模法人に該当します。中規模法人の基準

中小規模法人部門の認定申請料は、15,000円(税込16,500円)です。

中小規模法人のうち、以下の要件を満たした企業が健康経営優良法人として認定されます。健康経営優良法人(中規模法人部門)認定要件

出典:健康経営優良法人認定事務局「健康経営優良法人2024(中小規模法人部門)認定要件」

健康経営を行うメリット

健康経営を行うとどのようなメリットが得られるのでしょうか?

ここでは、健康経営を行うメリットを5つご紹介します。健康経営を意識する様子

①生産性向上 

労働生産性の向上は、健康経営の最大のメリットといえます。

従業員ひとり一人の心身の健康を高めることで、集中力やパフォーマンス、モチベーションが向上し、生産性や業績アップが期待できるでしょう。

実際に、健康経営の投資効果が実証された例もあります。

米国ジョンソン・エンド・ジョンソングループは、世界250社に対して健康教育プログラムを提供し、投資利益率を算出しました。

その結果、生産性・モチベーションの向上や医療コストの削減などにより、1ドルの投資に対し3ドルの利益が得られました。

このように、健康経営により生産性が向上し、企業利益につながることが明らかになっています。

②経営上の損失やリスクの回避 

従業員の健康を維持することで、疾病による長期休暇や退職者の高齢者医療費負担の低減が期待できます。

健康に働ける職場環境を提供することは、優秀な人材の流出を防ぎ、労務負担を軽減することにもつながるでしょう。

③企業イメージの向上 

「健康経営に力を入れている会社」「働きやすい会社」としてブランドイメージを獲得し、社会的評価を得られることもメリットです。

健康経営優良法人としての認定を受ければ、求職者へのアピールや、投資家・取引先からの信頼も獲得しやすくなります。

④自治体等のインセンティブを受けられる 

健康経営に取り組む企業に対し、次のようなインセンティブを付与する自治体・金融機関等が増加しています。

  • 融資優遇、保証料の減額や免税
  • 奨励金や補助金の支給
  • 自治体独自の健康経営企業認定、県知事による表彰
  • 自治体が行う公共工事・入札審査で入札加点
  • ハローワーク等で求人票にロゴやステッカーを使用

このようなインセンティブを得られることも健康経営を実施するメリットといえます。

【参考】経済産業省「中小企業への健康経営の普及」

⑤離職率低下につながる

従業員が健康に働ける環境を構築することで、病気やメンタルヘルスの問題による離職の防止が期待できます。

実際に経済産業省の調査では、健康経営銘柄に認定されている企業は、全国平均と比べて離職率が大幅に低いことがわかっています。健康経営銘柄法人における離職率のグラフ

出典:経済産業省「健康経営の推進について」

健康経営を行うべき企業 

全ての企業が健康経営を目指すべきであることは言うまでもありませんが、特に以下に当てはまる企業は健康経営を行うべき企業であるといえます。

中小企業 

健康経営と聞くと、大企業向けの取り組みのように思われるかもしれません。

「コストもかかるし、うちでは難しそう・・・」と感じる方もいるのではないでしょうか。

しかし、実は健康経営は中小企業の方が取り組むメリットが大きいです。

従業員数が少ない中小企業では、ひとり一人の健康状態が会社全体の生産性に大きく影響を与えます。

例えば、従業員数の多い大企業よりも、中小企業の方が一人の休職によるダメージは大きいですよね。

また中小企業の場合、従業員が休職・退職をしてしまった際の人材補充の難易度も高いです。

そのため、中小企業ほど従業員ひとり一人の健康を維持するために、健康経営を実施すべきと言えます。内定承諾率の向上に欠かせない2つの秘訣の資料ダウンロード

離職率が高い企業 

離職率が高い企業は、長時間労働や休日出勤、ハラスメントが横行していることが多いです。

長時間労働が続けば、従業員の体調不良やストレスにつながります。

健康経営により健康問題やストレスを軽減することで、ハラスメントの減少も期待でき、離職率を下げることにもつながるでしょう。

中小企業が健康経営を行うには? 

先ほど「中小企業ほど健康経営を実施することのメリットが大きい」とお話ししました。

とはいえ、金銭面での負担がネックで健康経営に踏み出せない企業も多いのではないでしょうか。

そんな時は、中小企業向けの助成金制度を活用することも一つの手です。

以下では、健康経営で活用できる助成金制度の一例をご紹介します。中小企業が健康経営を行う様子

①働き方改革推進支援助成金

働き方改革推進支援助成金には以下の3つのコースがあります。

労働時間短縮・年休促進支援コース

時間外労働の削減や、有給休暇・特別休暇の促進に向けた環境整備に取り組む企業を支援します。

詳しくは以下をご覧ください。

【参考】厚生労働省「労働時間短縮・年休促進支援コース」

勤務間インターバル導入コース

勤務終了後から次の勤務までの一定時間以上の休息時間を指す「勤務間インターバル」の導入に取り組む企業を支援します。

詳しくは以下をご覧ください。

【参考】厚生労働省「勤務間インターバル導入コース」

労働時間適正管理推進コース

労務・労働時間の適正管理の推進に向けた環境整備に取り組む企業を支援します。

詳しくは以下をご覧ください。

【参考】厚生労働省「労働時間適正管理推進コース」

②受動喫煙防止対策助成金

喫煙室の設置費用や整備にかかる経費の3分の2(主たる業種の産業分類が飲食店以外は2分の1)を上限100万円まで支援します。

詳しくは以下をご覧ください。

【参考】厚生労働省「受動喫煙防止対策助成金」

健康経営の始め方

次に、健康経営を始める際のステップについて解説します。健康経営を始める様子

①協会けんぽや健康保険組合に相談する

まずは、自社が加入している協会けんぽや健康保険組合などの保険者へ、健康経営を始めたい旨を相談してみましょう。

健康経営についての専門知識を備えた職員の方に、具体的に何をすればよいのかアドバイスしてもらうことが可能です。

また、中小企業が健康経営優良法人に認定されるためには、保険者が行っている「健康宣言事業」に参加したうえで、次に解説する「健康経営宣言」をしなくてはなりません。

そのため、健康宣言事業への参加方法や申請フローなどについてもあわせて教えてもらうとよいでしょう。

②健康経営宣言をする

次に、自社が健康経営に取り組むことを社内外に伝える「健康経営宣言」を行います。

健康経営宣言は、健康経営優良法人の認定を受けるための必須条件の一つです。

具体的には、企業ホームページなどでどのように健康経営を行っていくのか明文化し、発信します。

③健康経営の担当者・担当部署を置く

次に、健康経営を実践するための組織体制を整えましょう。

幹部や従業員の中から「健康づくり担当者」を選出し、担当部署を置きます。

「健康づくり担当者」は、総務・人事などの業務に携わっている従業員や、衛生推進に携わっている従業員の中から選ぶとよいでしょう。

「健康づくり担当者」の設置は、健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定を受ける際の必須の認定要件でもあるため、必ず設置してください。

④健康課題を把握する

組織体制が整ったら、自社が抱えている健康課題を把握します。

  • 定期健康診断・再検査・特定健診などの受診率
  • ストレスチェックや従業員のメンタル傾向
  • 残業時間・有給休暇の取得状況
  • 従業員の昼食などの食生活や、運動状況
  • 喫煙率

上記のような項目について調査・チェックを行い、課題を洗い出しましょう。

⑤計画を策定・実行する

自社の健康課題が明らかになったら、課題を解決するための施策を決め、計画を立てます。

残業時間や喫煙率など、数値化できる項目に関しては数値目標を立てておくことをおすすめします。

また、次の項目の実施は法令で義務化されています。

  • 定期健康診断の受診率100%
  • 屋内での禁煙(喫煙室除く)

達成できていない場合は最優先で取り組みましょう。

⑥取り組みの評価・改善を行う

定期的に施策の振り返りを行うことも忘れないでください。

健康経営は一朝一夕で効果が出るものではありません。

長期的に評価・改善を繰り返すことが重要です。

健康経営の取り組み事例【大企業編】

ここまで健康経営の始め方を解説しましたが、

「自社でできそうな取り組みってなんだろう?」

「自社と同じような規模の企業はどんな取り組みをしているんだろう」

といった疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

ここからは、実際に健康経営を実践している企業の取り組み事例を、企業規模別にご紹介します。

まずは大企業の事例を見ていきましょう。

【参考】健康長寿産業連合会「2023 健康経営 先進企業事例集」

①コニカミノルタ株式会社

コニカミノルタ株式会社<企業情報>

  • 業種:電気機器
  • 従業員数:4837名

<施策>

  • 全従業員を対象としたストレスチェックを年2回実施し、高ストレス者に対しては産業医または外部EAPによる面談・カウンセリングを実施
  • メンタル不調者の早期発見・早期対応のためのe-Learningを全管理職に実施
  • 外部サービスを利用し、各従業員の健康データ管理・ウォーキングイベント・健康情報の提供を実施
  • 食事内容を登録し、AIによるフィードバックが受けられるアプリの利用

<成果>

  • 17年度から23年度で【身体活動44%→22年度47%】【喫煙28%→21%】【睡眠不足48%→35%】【不適切な食事28%→21%】と、生活習慣が着実に改善
  • 組織健康度ではスコア3.5以上の上位レベルの組織が【20年度28%→22年度32%】 と増加
  • フィジカルハイリスク者の人数が【20年度103名→22年度66名】と減少

②株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所<企業情報>

  • 業種:情報通信
  • 従業員数:1021名

<施策>

  • 健康診断再診を医務室から個別に推奨・受診有無の確認を実施
  • 男性の育児支援制度利用向上を目指し、育児支援制度ハンドブックを作成
  • 男性の育休希望者への個別フォローの実施
  • 管理職向けの研修にて育児関連制度の説明を実施

<成果>

  • 定期健康診断の再検査受診率が向上
  • 一般的に発見されにくい病気(ex.十二指腸癌など)を早期段階で発見できるように
  • 「育休を検討する男性」「男性の育休取得を肯定し推奨する男性」の双方が増加し、加速度的に男性育休取得者が増加

③西川株式会社

西川株式会社<企業情報>

  • 業種:繊維製品
  • 従業員数:1390名

<施策>

  • ストレスチェックを用いて従業員のストレス状況の把握、従業員自身からのストレスに対する気づきを促しメンタルヘルス不調者を出さないよう未然に防止
  • 部署単位で睡眠セミナー、睡眠改善プログラムを実施
  • 予約制の仮眠ルームを設置(12:00~15:00仮眠推奨タイム)
  • 全オフィス・支店内における喫煙室を廃止
  • 禁煙外来の受診希望者に対して医療費の一部を補助

<成果>

  • 社員の健康に対する意識が向上
  • 人事総務部や衛生委員会への、衛生面や健康面について意見が増加

健康経営の取り組み事例【中小企業編】

次に、中小企業の取り組み事例を見ていきましょう。

【参考】経済産業省「健康経営優良法人取り組み事例集」

①ナガオ株式会社

ナガオ株式会社<企業情報>

  • 業種:薬品
  • 従業員数:61名

<施策>

  • システム上での問診や測定データ(血圧・体重等)をもとに、個別アドバイスや将来の健康状態の予想が自動出力されるセルフチェックシステムを導入
  • マラソン同好会を立ち上げ、4大会参加費やユフォーム作成費用を会社が全額負担
  • 地域のソフトボール大会への参加や、隔年で家族ソフトボール大会を実施

<成果>

  • 離職率が10年間で0.5%と低い水準で推移
  • 採用志望理由にワークライフバランスを挙げる候補者多数、従業員数も増加

②丸善土木株式会社

丸善土木株式会社<企業情報>

  • 業種:土木工事
  • 従業員数:19名

<施策>

  • 健康活動助成金でバランスボールを購入、社員全員に配布
  • 保険者開催のスマホアプリの歩数をグループごとに競うイベントに会社として参加

<成果>

  • 市のホームページに健康経営優良法人認定取得企業として掲載
  • 社員同士の会話で、健康講話や特定保健指導などの話で盛り上がることが増加

③株式会社笠間製本印刷

株式会社笠間製本印刷<企業情報>

  • 業種:印刷
  • 従業員数:81名

<施策>

  • 残業時間削減のため、年始に残業時間を含めた部署の業績目標を設定し、その目標と実際の結果を照らし合わせて、部署の管理者の賞与に反映
  • 定刻になると管理職のパソコンを強制的にシャットダウンするシステムを導入
  • スポーツジムとの法人契約を結び、従業員に利用を呼び掛け

<成果>

  • 中途採用面接で、候補者から「笠間製本印刷は福利厚生がしっかりしているイメージがある」との発言があった
  • 残業時間の大幅な削減に成功

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まとめ

いかがでしたか?

この記事のポイントは以下の通りです。

  • 健康経営とは、従業員の健康管理を経営課題として捉え改善に取り組むこと
  • 健康経営の取り組みが評価されると、健康経営優良法人として認定を受けられる
  • 健康経営は、生産性や企業イメージの向上、経営上の損失の回避などのメリットがある
  • 中小企業こそ健康経営を実施すべき
  • 中小企業の健康経営は助成金制度を活用しよう

健康経営を実現し、組織活性化や業績アップを目指しましょう。