「試用期間中に人材を解雇したいけど、そもそもできるの?」
「不当解雇に当たる場合は?」
こんなお悩みを抱える人事の方必見!
本記事では、
- そもそも試用期間中の解雇とは何か
- 試用期間中に解雇できる場合
- 解雇する際の注意点
について、具体的な裁判事例を紹介しつつ詳しく解説しています。
そもそも試用期間とは
そもそも”試用期間”とは一体どういった期間なのでしょうか。
試用期間とは、採用者に自社の社員としての適性があるかどうか見極めるために設けられるお試し期間のことです。
1~6ヶ月程度の期間を設け、採用者に実際の業務に取り組んでもらい、パフォーマンスや業務態度を評価します。
ここでは、雇用条件と労働契約の二つの観点から、より詳しくご説明していきます。
雇用条件の扱い
試用期間中の場合であっても、採用者に対して、労働時間・給与・待遇などの諸条件を含む雇用条件を提示する必要があります。
試用期間中の雇用条件についてはいくつか注意すべき点があり、主に以下の3点が挙げられます。
- 期間の長さ
- 給料
- 各種保険の加入義務
試用期間の長さ
試用期間の長さについて明確な法規定はなく、企業側が自由に設定します。
一般的には、3~6ヶ月程度に設定している企業が多いです。
例えば、ソフトバンク株式会社やJALは、新卒採用において3か月間の試用期間を設定しています。
また、NTTデータは4か月、三菱商事の場合は6か月間の試用期間を設けています。
試用期間は3~6ヶ月程度を目安に設定し、最大でも1年以内に設定するのが望ましいといえます。
【参考】ソフトバンク「新卒採用 募集要項」/JAL「職種別募集要項|新卒」/NTTデータ「募集要項」/三菱商事「新卒採用情報」
給料(給与・待遇など)
試用期間中の給料について、留意しておくべき点として以下2つが挙げられます。
- 試用期間中も給料の支払いは必須
- 本採用後と給与・待遇が異なるのは問題ない
試用期間中であっても、給料の支払いは必須です。
試用期間中も、採用者とは正式な雇用契約を結んでいる状態です。
試用期間中=仮の契約だと考えて給料を支払わないと違法行為に当たるため、注意しましょう。
ただし、企業・従業員双方が合意した上であれば、給与・待遇が試用期間中と本採用後とで異なっていても問題ありません。
減額の程度は企業側に任されており、例えば月給20万円の場合、試用期間中は19万円に設定しておくことが可能です。
また、都道府県労働局長の許可を取れば、試用期間中の給与設定を最低賃金の20%まで減額することができます。
この減額率は、採用者の経歴や能力、職務内容を総合的に考慮して企業側が決定します。
▼東京都最低賃金(1013円)を減額したい場合
減額率:15%に設定
減額する額:1013×0.15=151.95 151円
試用期間中の賃金:1013-151=862 862円
以上で挙げた項目(減額率・減額後の賃金)を厚労省が定める申請書に記入し、所定の労働基準監督署に提出するという流れになります。
【参考】厚生労働省「最低賃金の減額の特例許可申請について ~ 試の使用期間中の者~」
試用期間中の給与・待遇を本採用後のものとは別に設定する場合には、採用者との合意が必須であるため、異なる旨を雇用契約書・就業規則などでしっかりと明示しておくようにしましょう。
試用期間中の給料設定についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
【参考】jinjer Blog「試用期間の給料設定や給与計算についてわかりやすく解説」
各種保険の加入義務
また、試用期間中であっても、事業主側は採用者を各種保険(労働保険・社会保険)に加入させる必要があります。
労働保険や社会保険は法によって定められた強制加入のものであるため、従業員が加入要件を満たす場合には、企業側が加入義務を負うことになります。
試用期間中だからといって各種保険に加入させない場合、罰則を受けることになってしまうため注意しましょう。
保険毎の加入条件や、罰則内容など、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
【参考】Money Forward「試用期間中も社会保険への加入は必要?転職先で加入しないとどうなる?」
労働契約の扱い
以上で試用期間中の雇用条件の扱いについて解説しましたが、労働契約の方はどのような扱いになるのでしょうか。
試用期間中に結ばれる労働契約は、法的には「解約権留保付きの労働契約」とされています。
”解約権留保付きの労働契約”とは、企業側に従業員を解約する権利が付与されている労働契約のことです。
つまり、試用期間中において、採用者に業務適性がないとされた場合、企業側は採用者を解約する権利を有しているということになります。
通常の解雇より広い範囲において解雇の自由が認められているということです。
しかしながら、採用者を解約する権利が認められているからといって、試用期間中に好き勝手に採用者を解雇できるわけではありません。
労働契約自体は成立しているという状態になるため、一定程度厳格な解雇規制が敷かれることになります。
試用期間中の解雇について解説している厚生労働省の見解によると、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるような場合にのみ、解約権の行使が相当であるとされています。
では、具体的にどのようなケースが正当な理由に当たるのでしょうか。
不当解雇に当たる場合も含め、以下で詳しく解説していきます。
試用期間中でも解雇できるのか
結論から言えば、試用期間中での解雇は可能です。
しかしながら、先にも述べた通り、解雇理由には一定の合理性が必要であるため、試用期間で解雇したい場合には慎重な判断が必要です。
ここでまず気を付けておいて欲しいのが、”試用期間中の解雇”は2種類存在しており、「試用期間の終了を待たずして解雇する場合」は特に注意が必要ということです。
”試用期間中の解雇”は2種類に分けられる
”試用期間中の解雇”には、
- 試用期間の途中での解雇
- 本採用拒否
という2種類が存在します。
試用期間の途中で解雇する場合
予め設定した試用期間の終了を待たずして解雇するケースがこれにあたります。
例えば、3か月という試用期間を設定していたが、2か月で採用者を解雇した場合です。
本採用拒否
それに対し、本採用拒否とは、試用期間の終了と同時に解雇する場合を指します。
例えば、3か月という試用期間を設定していたが、入社後3か月が経過してから解雇する場合がこれに当たります。
以上2種類を比べた際、試用期間の途中で解雇する場合は本採用拒否に比べて不当解雇になりやすいです。
もしも採用者から訴えられた場合、「採用者の適性を見極めるために設けた試用期間を待たず、性急に解雇した」と判断される可能性が高いからです。
本採用拒否ではなく、試用期間の途中で解雇したい場合には、まずは労働問題に詳しい弁護士事務所などに相談してから進めるのがおすすめです。
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解雇が可能になる事例4選
では、実際にどんな場合に試用期間中の解雇が認められるのでしょうか。
具体的には、
- 病気や怪我をした場合
- 勤怠不良である場合
- 重大な経歴詐称があった場合
- 能力不足の場合
の4つが挙げられます。
①病気や怪我をした場合
試用期間中の社員が、業務外の理由で病気や怪我を被り、業務の継続が困難になった場合、正当な事由として解雇することが可能になります。
ただし、病気や怪我をしたからといって直ぐに解雇できるわけではなく、適切な手続きを踏んだ上での対処が必要です。
手順としては、
- 就業規則に沿って休職させる
- 休職期間満了時に、医師の助言を受け復職可能であるか検討する
- 復職が不可能だと判断した場合に解雇する
という流れになります。
また、以上に述べたのは業務外で怪我や病気をした事例でしたが、病気や怪我の原因が業務に関係している場合、別途対応が異なります。
詳しくは、以下の記事をご参照ください!
【参考】弁護士による労働相談「病気を理由に解雇できる?|解雇できるケースや注意点を解説」
②勤怠不良である場合
企業側が指導をしているにも関わらず、正当な理由がない遅刻・欠勤を繰り返している場合には正当な解雇事由として認められます。
ただし、どれくらいの期間中に、何回遅刻・欠勤をすれば解雇できるという絶対的な規定はありません。
また、企業側が勤怠不良に対して指導をしないまま解雇してしまうと、不当解雇にあたってしまう場合があります。
勤怠不良が生じた場合には、欠勤理由の確認を行った上で、書面で注意指導を行うなど、適切な指導を行いましょう。
③重大な経歴詐称があった場合
採用者が学歴・職歴・犯罪歴などその他重要な経歴について、企業側に虚偽の申告をしており、それが重大な経歴詐称に該当する場合は、正当な解雇事由に当たります。
解雇が認められる重大な経歴詐称とは、新たに発覚した事実が予めわかっていれば、採用者を採用しない・同一条件では契約を結ばなかった場合を指します。
例えば、実際にはシステムエンジニアとしての業務経験がないのにも関わらず、経歴を詐称して企業側を誤認させ、不当に賃金を得ていた場合などがこれに当たります。
ただし、学歴・職歴・資格を除く些細な部分の詐称では、重大な経歴詐称に当たらず、解雇が認められない場合もあるため注意が必要です。
④能力不足の場合
採用者に業務遂行に必要な能力が備わっておらず、期待していた結果が出ない場合が能力不足に当たります。
例えば、管理職の幹部として採用されたのにもかかわらず、単純作業のミスを繰り返し、期待されたマネジメント力を発揮できなかった事例では、能力不足が正当な解雇理由として認められています(キングスオート事件、東京地裁・2015年)。
しかしながら、”能力不足”を理由に解雇する場合は、慎重な判断が必要です。
過去の裁判例を参照すると、企業側の指導の有無などの状況の違いによって、同じ”能力不足”で解雇した場合でも不当解雇に当たっているケースが見受けられるためです。
試用期間中に能力不足を理由に採用者を解雇し、不当解雇として訴えられる展開は避けたいところ。
では、一体どんな場合に不当解雇になりやすいのでしょうか。
具体的な事例も含め以下でご説明します。
”能力不足”で解雇する際の注意点
まずは、能力不足で解雇して問題ないケースからご紹介します。
能力不足で解雇できる事例2選
能力不足での解雇が有効とされたケースは、
- 会社側から十分な指導があった場合
- 期待された能力が欠如していた場合
の2つが挙げられます。
①十分な指導があった場合
能力不足で解雇する場合でも、会社側から十分な指導があり、解雇を忌避する努力が行われている場合には、正当な解雇事由として認められるケースがあります。
以下に、具体的な事例として、日本基礎技術事件を挙げます。
【日本基礎記述事件 平成24年2月10日判決】
▼概要
建築会社に新卒で採用された技術者が、能力不足を理由に試用期間中に解雇されたが、正当な解雇として認められたケース。
▼能力不足の内容
- 作業中に睡眠不足で居眠りをする
- 時間や期限を守れず、時間管理能力に欠ける
- 数分で終わる単純作業に1時間以上かかっていた
- 再三の注意を受けても以上の行為に改善が見られなかった
▼判決の理由
- 繰り返し指導が行われているのに対し、明確な改善が見られない
- 今後指導を継続しても、社員に足る能力を得る見込みがたたない
判例の詳しい内容は以下の記事をご参照ください。
新卒社員の研修態度の悪さに対して、会社側が解雇を忌避する努力、つまり十分な指導を行っていた点が重要な点になります。
逆に言えば、企業側からの十分な指導がないにもかかわらず能力不足として解雇してしまう場合には、不当解雇と判断されるケースが多いです。
以下に、必要な指導が見受けられなかったために不当解雇に当たってしまった事例を挙げます。
【有限会社X設計事件 平成27年1月28日判決】
▼概要
土木関連の会社に図面作製の経験者として採用された従業員が能力不足を理由に試用期間満了後に解雇されたが、不当解雇と判定されたケース。
▼能力不足の内容
- 入社後指示した橋梁の図面作成について、不備が有り手直しが必要な状態だった。
▼判決の理由
- 入社早々に指示された図面作製については、従業員に経験がないにもかかわらず会社側から明確な指導を行った形跡が見られないこと。
- 図面の作成について不備があり時間を要しているものの、最終的には要求通りに作業が出来ている点
従業員に図面作製の適性がないとはいえず、また、会社からの具体的な指導も見受けられなかったとして、不当解雇として判決が下っています。
以上のように、例え経験者として従業員を採用していても、必要な指導をしないまま能力不足として解雇してしまうと、不当解雇と判断されてしまいます。
試用期間中、期待通りの能力を発揮できないからといって直ぐに解雇に踏み切るのは危険です。
まずは会社側から指導を行ってみて、改善が見られるかどうか判断したうえで解雇を検討していきましょう。
②期待していた能力が欠如していた場合
業務上期待されていた能力が採用者に不足していた場合には、試用期間中の解雇でも正当とされる場合があります。
具体的な事例として、リーディング証券事件を挙げます。
【リーディング証券事件 平成25年1月31日判決】
▼概要
証券アナリストとして採用された韓国国籍の従業員が、ネイティブレベルの日本語が備わっていないとして試用期間の途中で解雇され、判決で有効とされた事例。
▼能力不足の内容
- 日本語のレベルが低く業務スピードが遅い
- 証券アナリストとしての専門知識・技術レベルが低い
▼判決の理由
- 会社側は、”ネイティブレベルの日本語力でもって、証券アナリストとして活躍できる即戦力”を期待して当該従業員を雇用している
- 採用を決定づけたレポートの作成において、日本人の夫の手を借りていたという事実を秘匿していた
当該従業員が入社後に作成したアナリストレポートの出来栄えは、企業が求めていたレベルには到底達していなかったこと。
また、採用時に即戦力としての採用を決定づけたレポートに関して重大な秘匿があったことを踏まえて、解雇が有効と判断されています。
このように、採用の過程で、人材の判断を誤らせるような事実が発覚した場合は、試用期間中の解雇も正当とされる可能性があります。
不当解雇になりやすい事例2選
これまでに、能力不足での解雇が有効とされるケースを見てきました。
では、どんな場合に不当解雇に当たってしまうのでしょうか。
具体的には
- 新卒・未経験者を能力不足で解雇する場合
- 試用期間の途中で解雇する場合
の2つです。
①新卒・未経験者を能力不足で解雇する場合
特に注意が必要なのが、新卒・未経験者を能力不足で解雇するケースです。
新卒や未経験者については、裁判所は「はじめは仕事ができないのは当然であり、企業側の指導により育成すべき」という考えを取っています。
そのため、能力不足は解雇事由として不十分だとされる可能性が高いです。
以下に、未経験者を試用期間中に解雇したことが不当解雇に当たった事例をご紹介します。
【社労法人パートナーズ事件 平成25年9月19日判決】
▼概要
社労士の未経験者として採用された従業員を、能力不足を理由に試用期間の途中で解雇したが、不当解雇と判定された事案。
▼能力不足の内容
- 従業員が、顧客への意向確認が不十分なまま雇用保険の手続きを行った
- 社労士の基本業務においてコミュニケーションが不足していた
▼判決の理由
- 企業側は、従業員が実務経験のない未経験者であることを了解した上で採用しており、即戦力としての活躍を期待できる状態ではない
- 顧客への意向確認について、予め明確な指示は見られなかった
【参考】栗坊日記「解雇145(社会保険労務士法人パートナーズほか事件)」
②試用期間の途中で解雇する場合
予め設けられた試用期間が満了する前に、能力不足で解雇する場合も不当解雇と判断される可能性が高いです。
そもそも試用期間は採用者の適性を見極めるために設けられている期間であり、期間の途中で解雇する場合、企業側が十分な指導をしなかったと判断されるリスクがあるためです。
具体的な事例としてニュース証券事件を挙げます。
【ニュース証券事件 平成21年1月30日判決】
▼概要
かつての営業経験から、即戦力として採用された従業員が、成績不振を理由に試用期間の途中で解雇されたが、試用期間満了前に能力不足と判断するのは性急すぎるとして不当解雇に当たった事例。
▼能力不足の内容
- 営業の経験者として当該従業員を採用したが、入社後3か月間の営業成績が他の社員に劣っていた
▼判決の理由
- 営業日誌から、採用者が地道に営業活動を行っていたことが散見され、成績の改善見込みがないとはいえない
- 採用者の資質・能力について、試用期間満了を待たずわずか3か月で判断するのは性急すぎること。
以上に挙げたケースのように、試用期間満了前に能力不足で解雇してしまうと、例え経験者枠としての採用であったとしても、能力の有無を判断するには不十分だとして不当解雇に当たるリスクがあります。
採用者に対して期待するパフォーマンスが見られない場合、まずは指導を行ってから解雇を検討しましょう。
また、もし解雇をするという結論に至った場合には、試用期間満了を待つようにするのが安全です。
ただし、試用期間中に能力不足で解雇したい場合、解雇の有効性について様々な判例で争われており、解雇が可能かどうか判断するのは困難です。
能力不足で解雇したいと考えた場合、まずは専門知識のある弁護士に相談してみましょう。
まとめ
いかかでしたか?
今回の記事では、試用期間の解雇はそもそも可能なのかどうか、不当解雇に当たるのはどんな場合か、具体的な事例を用いてご説明してきました。
今後の採用活動にお役立てください。